ワンコインプラスファイブ






「やあみょうじちゃん!」
「東堂くん」

寮の近くには100均がある。
近くと言っても自転車で5分くらいの距離だけど、それでもハコガク寮生がよく利用する店だ。
ノートが切れていたことに気づいた私は、夜八時ここを訪れていた。
寮の門限は九時。それ以降の外出は許可がなければ禁止だ。早く済ませて戻らないと、めんどくさいことになる。
そんなとき、偶然東堂くんと鉢合わせた。
隼人くんの友達。この間昼食を共にしたばかりだ。
隼人くん以外の男子と二人っきりで話すのは初めてかも。少し緊張していたら、東堂くんは隣まで歩いてきた。

「ノートを買うのか?」
「うん、東堂くんは…」
「シャー芯が切れてな!」

東堂くんの手にはオレンジのシャー芯があった。B。東堂くんは濃いのが好きらしい。

「しかしなんだ、外で会うと変な感じだな」
「そう、かな?」
「隼人が居ないからだな!」

どうやら東堂くんの中では私と隼人くんはセットらしい。
あと私服!と指差される。確かに寮に戻った後だから制服を着ていない。そりゃそうだ。
東堂くんは半袖のパーカーと下は黒のジャージ。初めて見るはずなのに、違和感はない。
よく似合ってるからなのか?そう思っていると、「その服はよくにあってるぞ!」と褒められて、割と適当な服なのに東堂くんは律儀だなと思った。
女の子の洋服を褒めるのがイケメンの基本だと何かの本に載っていたのを思い出す。

ノートとシャー芯を会計して、二人して100均を出た。
夜道は暗い。偶然か態とか、東堂くんは車道側を歩いている。すごい。

「みょうじちゃん、この前はすまんね」
「えーと、この前とは」
「弁当の時だよ。あの後隼人にみょうじちゃんは男子が苦手だと言われてね。やりすぎた」

隼人が面白かったものだからと東堂くんが申し訳なさそうな顔をする。
弁当の時とは、多分肩を寄せられたアレのことだ。
そういえばそういうこともあったなあ。
あの時は確かに恥ずかしかったけど、東堂くんにとっては普通のことなんだと思うことにして、気にしないようにしていた。
あの日からは結構経っているのに、東堂くんはずっと気にしていてくれたらしい。わざわざ謝るほどのことでもないのに。

「あの、ちょっとびっくりしたけど、平気だし、気にしてないし!それに、東堂くんのおかげで結構気楽にいられたというか」

男子四人に囲まれて食事。以前の私なら絶対無理だった。
隼人くんがいたとはいえ、結構緊張していたのに。
しかも東堂くん。女の子に人気があって、だからもっとこう、パリッとした人だと思っていた。
だから思ったより気さくで優しくて驚いた。
東堂くんは冗談を言って私を馴染みやすくしてくれたんだと思う。
ここで改めてお礼を言うと、少し驚いた顔をしたあと、「まあな!」と自信満々の笑みで言った。

「そうだみょうじちゃん!メアドを交換せんかね」
「えっ」
「隼人の友達なら何かと話すこともあるかもしれんからな!今ケータイは持ってるね?」

東堂くんに急かされるまま、ポケットからケータイを取り出した。
このさき東堂くんにメールすることなんてあるんだろうか?うーん、わからない。

「何かあったら相談してくれてもいいからな!隼人のこととか!」
「え、相談?隼人くん?」

隼人くんのことで相談って、「最近隼人くんがお菓子の食べ過ぎで太ってきた気がするんですけど」みたいな?
東堂くんは歯を見せてにやにやしている。彼の求めている相談ができるかはわからないけど、いざとなったら頼りにさせてもらおう。

「…よろしくおねがいします」
「うむ!」










「あ、隼人」
「ん?なんだ尽八」
「昨日みょうじちゃん話したぞ。いい子だな!メアドも交換したぞ」
「…余計なこと言ってないな?」
「さあな!」
「………。」


140117



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