気づいたときには終わっている





その日の朝練はノルマの周回を終えて、部室の中のローラーで走っていた。
3年が先で、2・1年はあとから。
当然先に始めた上に速いオレたちが先に部室に戻ることになる。
時間は7時15分。40分くらいには切り上げて、ダウンと学校の準備をするだろうか。
そろそろ2年先頭の泉田が帰ってくるな、そう思っていると、タイミングよく泉田が入ってきた。

「失礼します、新開さんお客さんです!」

いつもは2年泉田入りますなんだけど、今日は違った。
オレら以外の3年の目が泉田に集まる。
オレに客?珍しい。隣の尽八に女子だといわれて振り返ると、そこには小動物がいた。
みょうじさんだった。腕には紙袋を抱えている。多分、オレのジャージが入ってる。
寿一に許可を取ってからローラーから降りてみょうじさんの元へ行った。

昨日結局オレ、名乗ってなかったよな。
そう思ったけど、体操服を貸したということを思い出してそれを見たのかと気づく。
もし気づかなかったらとりにいくつもりではいたけど、態々来てくれるならありがたい。
中を見ると見た目でわかるくらいふわっふわで、こんなのよく寮の洗濯でできたなと感心した。
やっぱり女の子なんだな。前に靖友から返ってきたときは同じ寮にいるから当然だけど、洗い心地も変わらなかったのに。
こういうところで意識してしまう辺り、オレって結構みょうじさんのこと気にしてるとおもう。
ジャージを渡して手早く帰ろうとするみょうじさんをそのまま帰すのが勿体無い。
そう思ったときにはもう遅くて、みょうじさんを引き止めていた。


殆ど自転車競技部用になっている自販機でカルピスと炭酸を買った。
みょうじさんにカルピスを投げて、オレは炭酸のふたを開ける。
自販機の前にある割と古びたベンチに座って、一服。みょうじさんは控えめにカルピスを飲んでいる。
そのちびちびしたところがやっぱり小動物っぽいと思う。オレってこういう系に弱いのかな。

そういえば、こんな風にみょうじさんと面と向かって話すのは初めてかもしれない。
事務的な会話でも避けられるし、昨日だって正体を明かしていたらきっとそうなっていた。
正体を知らせずに、だけど気づかせるようにして、むこうから近づくようにし向けて、捕まえる。
結構えげつないことしてるんじゃないか、オレ。隣のみょうじさんはもやもや何かを考えているようだ。
みょうじさんと話したい。
気になってる女の子と話したいって思うのは、男なら普通だろ?
あわよくば友達にもなりたい。付き合いたいとかは、まだ思わないな。かわいいとは思うけど。

会話のネタを探して、2、3度キャッチボール。うまく飛んだのは、親しい後輩の話だった。
男子に話しかけるのが苦手そうなみょうじさんが、普通に応対してた泉田。
尋ねると、中学が同じで親しくなったらしい。
なるほどな、アイツ、いいやつだし。優しいし。こういうヤツなら平気なのか。
最初はもぞもぞ話していたみょうじさんも泉田のことだと話しやすいのか、ぽろぽろ言葉がでてくる。ちゃんと話せてる。
筋肉に名前をつけてるって話をしたら目を見開いて大げさに驚いてみせた。そういうところがカワイイ。
でも、泉田か。泉田な。
オレのほうが女子とは親しく話せてるとおもうけど、まさか泉田に先越されてるとはな。
まあ、出会ったのが中学のときだから当たり前だけど、みょうじさんにこんな親しげに話せる男子がいたなんてな。
仲良しの女子の彼氏くらいだと思ってたのに。とんだ伏兵だ。
中学のみょうじさんてどんなんだったんだろう。泉田は中学学ランだったらしいけど、やっぱセーラーかな。
小柄だし、似合いそうだ。見てみたい。そう思うと、止まらなくなった。
オレ、別にみょうじさんのこと好きじゃなかったはずなんだけどな。いや、多分まだ好きじゃない。まだ、気になるだけだ。
でもやっぱりオレも男子だから、気になる女子とは友達になりたいよ。
手を伸ばす。小さな手がオレのを包んだ。色も感触も違う。力を入れたら潰れそうだ。

「これから、みょうじさんのいろんなとこを知りたい。泉田の知らないようなことも」

後から考えるとオレ、この時点で結構みょうじさんのこと好きだったんだと思う。
気づかないうちにハマってるもんなんだよな。恋ってやつはさ。



131230




「#幼馴染」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -