キメるぜゴール!





球技大会。
高校生活最後の球技大会だぞ、という体育委員の言葉に、少し寂しくなる。
運動があまり得意でない私には少し憂鬱な行事だったけれど、最後となるとまた別だった。
私とマキちゃんはバレーで、対戦相手はC組だ。
マキちゃんは私と違って運動神経がいいからガンガン攻めていたんだけど、私がへっぽこすぎて余計な点を取られてしまい、結果として負けてしまった。
マキちゃんは相手に元バレー部がいたからだとフォローしてくれたけど、どう考えても私のせいだと思う。
うーん、せめて足を引っ張らない程度に運動ができたらよかったのにな。

「おつかれ、なまえ」
「は、隼人くん」

クラスの人が集まっている場所に近づくと、後ろからぽんと肩を叩かれる。
振り向くと隼人くんが居て、ニコニコしていた。
私と違って汗一つかいてないところからして、出る競技はこれからなんだろう。

「凄かったな」
「…それは悪い意味で?」
「かわいかったよ」
「いや、意味わかんないから」

マキちゃんが上げたボールを拾おうとして、思いっきり滑ったことを思い出す。
体育館中から笑いがあがって、みんなに見られてしまった。恥ずかしい、穴があったら入りたい。
隼人くんもきっとそれを言っているんだろう。あんなところ、見られたくなかった。
これ以上この話題を続けたくなくて、話題を変えた。

「隼人くんは何に出るの」
「オレ?オレはこのあとのバスケ」

尽八のとこと試合、と人の群れを指差した。
そこにはキャーキャー女子に囲まれはしゃがれている東堂くんがいた。
相変わらずすごい人気だ。それに一つ一つ応えている東堂くんもまたすごい。
バスケの時間がきたのか、同じクラスの男子が隼人くんに着るタイプのゼッケンを渡した。
敵味方入り混じる競技では、分かりやすいように派手な色の番号つきのゼッケンを着ることになっている。
隼人くんのは4番。インターハイのものと同じだった。

「4番!あれでしょ、えっと、エースなんとか」
「エーススプリンターね」
「そうそれ」

バスケにスプリンターとかそういうのは関係ないけど、やっぱりその番号だと気合が入るらしい。
東堂くんを見ると3番を貰っていて、ゼッケンを配る人はわかってるなぁと思った。
クライマーの番号だからな!と女子に見せびらかしているあたり、さすがだ。

「勝ってきてね」
「当然」

東堂くんにまた人差し指を向けると、ひゅっと上に上げる。
いわゆる、バキュンポーズというやつだ。

「バキュン」
「コラ隼人!仕留める気か!?」
「あたりめーだろ」
「みょうじちゃんの前だからってかっこつけさせんぞ!オレが勝つ!」

ビシッと音を立てて、しかえしのように指差した。
ぎゃんぎゃん言いながら東堂くんはスタート場所に移動していって、隼人くんも私の頭を撫でてジャージを押し付けた後、コートへ入っていった。
試合が始まる。
自転車の上手下手って根の運動神経が関係ないらしい。
だから、自転車部でエースだからってこういう場所で活躍できるとは限らない。
事実、後輩の泉田くんはそんなに運動が得意じゃなかったし、中学の体育祭でもあまり活躍していなかったと思う。自転車はとんでもなく速かったらしいけど。
二人は鍛えてる分、体力はあるんだろうけどどうなんだろう。

ジャンプボール、取ったのは東堂くんのクラスの人だった。
背の高い男子、185cmはあるかもしれない。
隣に座った女の子が言うに、185cmの彼は元バスケ部らしく、動きもそれなりだった。

「東堂!」
「任せろ!」

ひゅっとボールが宙を舞ってゴール下の東堂くんの手に収まる。
それはそのまま弧を描いて網をくぐった。
体育館がどっと沸く。ワッハッハと笑い声が響いた。
男女入り混じった歓声。東堂くんの人気を痛感した。
隣に座っている子もはしゃいでいる。まぁたしかにかっこよくはある。
ビシッビシッと指差すキメポーズをしている間に、試合は再開していたらしく東堂くんは乗り遅れていた。

「見たか隼人!みょうじちゃんもオレのこと見てた!見てたぞ!」
「そうだな尽八。だけど、これからだ!」

東堂くんに向かって投げられたボールをカットして、隼人くんがドリブルで向こう側へ持っていく。
隼人くん、運動神経いいのか?なんて言ってごめんなさい。
そう謝りたくなるようなキレのよさだった。

「すっご!」
「新開くんかっこいい!」

後ろでクラスの女の子が色めき立つ。
私の友達はすごい。自分の事のように誇らしい。

何度かクラスメイトにパスしたあと、最後に隼人くんがシュートを決めた。
さっきまで東堂くんがかっこいいと叫んでいた女子が隼人くんの名前を呼ぶ。
すごいなあ、かっこいい。
隼人くんと目があって、かっこいい!と叫んだ。
周りがうるさいから聞こえないと思ったのに、どうやら耳に届いたらしい。
ウインクが一つ飛んできて、周りの女子を打ち落とした。
…ちょっとときめいて、悔しかった。


結果は、1点差でウチのクラスの勝ちだった。
東堂くんが悔しそうに「次は負けんぞ!」と指さしていたけれど、球技大会はこれで最後だ。

「おつかれ隼人くん」
「ありがと、どうだった?」
「かっこよかったよ!」
「惚れた?」
「惚れない!」

冗談ぽく言う隼人くんに笑顔でそう返すと、苦笑いを浮かべられた。
せっかくかっこよかったんだし、冗談でも惚れたというべきだったのか。ていうかなんだその目は東堂くん。
預かったままだったジャージを隼人くんに渡して、次の試合を見に行こうということで場所を移動した。
隣のコートでは福富くんのクラスと荒北くんのクラスが戦っている。
ボールを持った荒北くんには態とのように福富くんが付けられていて、苦い顔をしていた。

「はは、靖友面白いな」
「いつも福ちゃん!福ちゃん!だもんね」
「あ、なまえそれ似てる」
「でしょ!」

結果は福富くんのクラスの勝ちだった。
クラスの人とハイタッチをする福富くんがなぜかイメージに合ってなくて笑ってしまった。
そうだよね、怖い顔してるけど福富くんも普通の男子高校生なんだよな…。
いい試合だった、と福富くんに握手を求められた荒北くんは照れくさそうに、でも嬉しそうに握手に応じている。
それが面白かったのか、隣で隼人くんが噴出した。
気づいた荒北くんがこちらに歩いてきて、隼人くんの背中をバシンと叩いたけれど、笑いのツボに入ったらしくそれも気にせずずっとプルプル震えている。

「みょうじ、新開。見てたのか」
「ついさっききたとこだけどな。お疲れ寿一。っ…と、靖友」
「笑ってんじゃネェヨ!お前も止めろみょうじチャン!」
「いや、隼人くんはツボにはいったら止まらないからムダだよ」
「みょうじは新開と仲がいいな」
「えっこのタイミングでそういう!?」
「っく、じゅ、じゅいち…!」
「ちょっと福ちゃんまたツボに入ってンだケド!」
「?すまない」

なんだ、天然なのかこの人は。
荒北くんはもう一度隼人くんの背中を叩いてから、別の場所へ福富くんを連れて歩いていった。
結局隼人くんは召集がかかるまで笑ったままで、ツボ浅すぎだろと思いつつ背中をなでた。


そんな或る日の、青春の一ページ。


131227



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