インターホンが鳴る。
はぁい、と扉の向こうに聞こえるかも分からないような返事をして、錠を開けた。

「…ちゃんと確認しねーで開けんなよ」
「だって大我しか来る予定なかったし」
「不審者だったらどうすんだよ」
「…大丈夫だよ」

1ヶ月ぶりに見た姿。
いつもは私が大我の家に行くけれど、今日は大我がウチに来ていた。
理由は家族が全員出払っているから。
たまにはウチにおいでよ、そう言うと大我は少し嬉しそうな声で、「おう」なんて言うから、私はこの日をものすごく楽しみにしていた、のに。

なんだか会って早々険悪ムードだ。大我の機嫌が少し悪い。
理由?そんなことは何となく予想がついている。

先ほど1ヶ月ぶりだと言ったけど、別に大我の休みと私の休みが1ヶ月も重ならなかった訳じゃない。
一応二回機会はあったのだけど、私の都合により行くことができなかった。
その都合というのが、今海外から遊びに来ている従兄。
従兄がまだ日本に居た頃、私は彼にこれ以上ないくらい懐いていたので、久々に会った従兄も私に構いたい、私も従兄に構ってもらいたいで大我の誘いを蹴って二人で出かけたりしていたのだ。
勿論、やましい気持ちはない。だって従兄には海外に彼女がいる。
そう説明しても大我の機嫌はよくなるどころか、彼の話をすることによって益々悪くなっていき、初っ端からこんなにけんか腰なんだろう。
…一応言葉は心配してくれているのだけど。

「とりあえずあがりなよ」
「イトコは?」
「家族と出かけてる。」
「…ふうん」

大我がウチに来たのは初めてじゃない。
回数は片手で数えられる程度だけど、一応来たことはあるし、両親に会ったこともある。
でもやっぱりいつも会うのが大我の家で、ホーム――一応言っとくと、ギャグじゃない――だから、アウェイな場所でこうして会うのはなかなか久々なのだ。
少しそわそわしていて、家の中を見回している。

「先に部屋行っててよ、私ジュースとか用意するから。」
「おー」

返事は口だけ、大我は壁にかかっている写真を凝視している。
…そんなに面白いかな?
ちらりと横目で見ると、大我は私が幼いころに従兄と撮ってもらった写真をじっくり見ていた。

「な、なに」
「いや別に。コレがイトコかーって。あとお前ちっせーなって。」
「そりゃ子供の頃なんだから当たり前じゃない」
「まー今もちいせえけ…いでっ」
「早く部屋行って!」
「はいはい」

頭にぽんと手を置かれたのがなんだか子ども扱いみたいで恥ずかしくて、鳩尾に肘を入れた。
別に私の身長が特別低いわけではないとは思うけど、大我がアレだから小さいと言われても否定も何もできないのだ。
大我がデカいだけ!って言うのも…なんか、癪だし。

コーラのペットボトルとグラスを二つ持って部屋に戻る。
両手が塞がってるから大我にドアを開けてもらって、二人で何故かコーラを乾杯した。

「何か久しぶり」
「そりゃ一ヶ月ぶりだからな」
「一応メールも電話もしてたのにね」
「実際会うのはちげーだろ」

こうやって触れるし、と大我が私の頬を摘んだ。
やめてよ、と言うより先に、なんだか珍しいなぁと思った。
…いつもはこんなに触ってくること、ないのに。
確かに背中合わせで座ったりとか、そういう寄りかかるようなスキンシップは多いけど、こういう…一方的なスキンシップは珍しい気がする。
首を傾けると頬を摘む指の力が抜けて、なんだよ?と大我もまた首を傾ける。

「珍しいなと思ってさ」
「別に、そうでもねーだろ」
「大我が自分から触ってくるなんて」
「イヤかよ」
「そんなことないよ」

ちょっと嬉しい。
いつもより素直になって、大我に近づいた。
ベッドを背もたれにしてフローリングに座り込み、コーラを煽る。
シチュエーションは違うけど、縁側で晩酌してるみたいだな、なんて一人で想像して笑った。

「…イトコと、どこいってたんだよ」

急に切り出されたイトコの話。
大我の視線は隣の私を捕らえず、何を見るでもなく真っ直ぐ先を向いていた。

「どこって…昔遊んだ公園とか、ちょっとショッピング行ったりとか」
「公園?」
「行ったことあるでしょ、駅の近くの…バスケットゴールのあるとこ」
「ああ…」

心当たりが合ったようで、納得したような声を漏らす。
それでもなんだか、大我の顔はまさに言葉で表現するなら『浮かない』と言った感じで、スキンシップや体の距離の割に満たされていないように感じた。
こんな大我はやっぱり珍しい。珍しいこと尽くしだ。
少しだけ不安になって、大我に体重を全て預けてみた。鍛えた体は私の体重ごときじゃびくともしない。

「…大我?」
「なぁ、キスしていいか」

どき、と心臓が高鳴った。
関係が長い割にそういうことは殆どなかった私たちだから、なおさらその言葉に震える。
怯えてるわけじゃない、けど。なんだか大我がおかしい。
どうしたんだろう?眼差しはいつもより真剣に見える。

「い、いいけど」
「ん」

大我の肩に手を添えて膝立ちになって唇を合わせた。
大我も大我で、私の顎と頭を捕らえて押し付ける。
飢えてる獣みたいだなんて感じて、やっぱり怖くなって、そして少し顔が赤くなった。

大我の手の力が緩まったのを合図に唇を離す。
どうしたの、珍しいね。そう聞いてもそっけない返事が返ってくるだけだった。
たぶん、大我も大我で何か思うところがあるんだと思う。

「…イトコの為に大我の約束蹴ったの、怒ってる?」
「怒って、は…ねえけど。久々に一人でゆっくりしたし」
「うん…」
「でもなんか、物足りねーっつーか」

ストバス行って、帰って来て、適当にメシ作って、食って、適当に寝た。
学校がある日とやってることかわんねーのに、本当は今日なまえと飯食うはずだったのになぁ、とか考えると妙に損した気分になってた。

大我は淡々と言葉を紡ぐ。
嫉妬されて、激情のままに責め立てられるのとは違う圧迫感が私の胸に残る。
従兄と過ごすのを選んだ休日に後悔してるわけじゃないけど、何か辛いものが私の心に刺さっていた。

「ッわりー、マジで俺なんか今日おかしいみてーだわ」
「うん…」
「やっぱ帰る」
「なんで」
「無理。色々…」

色々って何、煮え切らない態度に少しイラついて、立ち上がった大我の腕を無理矢理引いた。
予想以上に大我の体に力が入ってなかったのと、私の力が予想以上に強かったのか、大我の体が大きく傾く。

「うおっ」
「わっ」

そのまま雪崩れ込んで私はフローリングに尻餅をつき、大我は私に覆いかぶさるような状態になる。
つまりはまぁ、端から見たら押し倒されている、ような状態で。
状態を理解していない大我に「重いよ」というと、叫び声を上げて後ろに倒れた。
…そこまで驚くことないと思うんだけど。

「わ、ワリ、マジ俺、その…」
「いやそんなに謝らなくても…」
「つ、つーかひっぱんなよびっくりするだろ!心臓に悪い!」

そんなに驚かせることだったっけ?
ごめん、と小さく謝ると、またばつの悪そうな返事が返ってきた。

「大我、今日ホントどうしたの」
「ど、どうしたって…なんだよ」
「おかしいよ今日色々。従兄のことやっぱり怒ってるんじゃ…」
「怒ってねえって!マジで!」

言い方からして、うそではないと思う。
でもなんで?妙に気になって引けなくなって、大我に問い詰める。
やっぱり罰の悪そうな返事。じゃあ私が他に何かした?そう聞いても首を横に振る。
私が何度もなんでと問い詰めるのについに降参したのか、大我はわかったわかった!と両手を挙げた。
気がつけば何故か正座で大我に向き直る。大我も苦手なはずなのに…なんでだろう。

「あー…その、まぁ…多少は、嫉妬してたんだよ」
「やっぱり。だから機嫌悪かったの?」
「別に悪くは…」
「いや、悪かったでしょ」

そういうとむっと押し黙る。
ちょっとにやっと笑うと、仕切りなおしだといわんばかりに頭をわしわしと掻いた。

「まーなんだ、その…」
「大我のこと放置しないで、ってこと?」
「…………。」

あ、図星なんだ。
いつも以上に大我がかわいく見える。なんだか、大型犬みたいだ。
かわいいねー、なんて言うと、うっせえという言葉と共に頭に手が乗せられた。





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mikuさんリクエストの従兄弟に嫉妬する火神くんです!
従兄を出すか出さないか迷って、オリジナル色を薄くしたかったのでこういうかんじにしました…!
嫉妬系はむずかしいですね。精進します!
リクエストありがとうございました!





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