「…なんかつけてる?」
「あー…おう」

大我からいつもと違う匂いがする。
気づいたのは私が大我の家に入ってすぐのことだった。
いつもどおりのTシャツにジャージ姿。
でも何故か、なんだか…フローラルな香りがする。気がする。
それはどう考えてもスポーツ少年火神大我には似合わないような、女の子がつけてるような、爽やかな香りだった。

「どしたの、これ」
「先輩がなんか貰ったとかいって、遊びでつけられて…」

いかにもだるそうな顔をしながら、首の後ろを擦って言った。
なるほど、そういうことなのか。
妙に納得しながら、いつもと違う匂いのする大我に擦り寄る。
くんくん、匂いの元はどうやらTシャツの襟元のようだ。

「うおお、爽やか…」
「俺からこんな匂いしても気持ち悪いだけだろって」
「うん、たしかに」
「…。」

自分から吹っかけた話なのに、素直に肯定されたのは少し引っかかるらしい。
少しにらまれた気がするが、気にしないことにする。
いつもと違う匂いで、それが大我には全く似合わない匂いだとしても、この香水は結局イイ匂いなのだ。
大我の鎖骨に顔を寄せて、息を吸った。うわ、なんか変態みたいだ。でも香水はやっぱりイイ香り。
普段からしないわけではないけど、こんなに擦り寄るのはなんだか気恥ずかしい。
ごまかすように大我に顔が見えないように、鎖骨に顔を埋めた。

大我本人の匂いと、香水が混ざって…変な感じがする。臭いわけじゃないけど、なんなんだろう。ちょっと落ち着くかも。
やばい、ちょっと匂いフェチの気持ちが分かってしまった…かもしれない。

「あー………いいかも」

ふふ、と笑って目を閉じる。と、くわっと大我に引き剥がされた。
肩をがっちり掴まれて、香りから離される。
何事か、と大我の顔を見ると、なるほど真っ赤だった。

「…照れた?」
「いッ!いや、そういう…わけじゃねえけど、こーいうのあんまやんなよ!」
「いいじゃん大我だし…」
「俺だからダメっていうか、いや、俺以外はもっとダメだけど…!」
「…何」
「だからその、ど、ドキドキする…から」

罰が悪そうに、目を背けながら耳まで真っ赤にして彼は言う。
なんかかわいいなぁ。こういう大我を見ると、ちょっとからかいたくなってしまう。
いじわるな顔になるのを抑えつつ、大我と見詰め合っていた。

「大我君、それってつまりさ」
「な、なんだよ…?」

ちらり、顔はそっぽ向いたまま、視線だけ私にくれた。
にやりと笑って、言い放つ。


「興奮…してるの?」


我ながら、いやーな顔をしていたと思う。
既に真っ赤な顔をもっともっと赤くして、大我はすっくと立ち上がった。
どこに行くのかと思えば綺麗な姿勢のままトイレへ駆け込み、大きな音を立ててドアを…閉めた。


「あらら」


なんか、やっちゃったなぁ。
ちょっと申し訳なく思いながらも、しばらくしたら帰ってくるであろう大我を、ローテーブルに置いたジュースを飲みながら待つことにした。






121208
香水発売を記念して。なんか久々に描いたので変な感じです。





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