私と大我が出会ったのは中学の頃。
アメリカから帰ってきた大我と私は気がつけば彼氏彼女になっていて、交際は大我が誠凛、私が有名私立女子校に入学してからも続いていた。
付き合ってから、そんなに長い時間が経った訳じゃない。
お互いのこともあまりよく知らない。おまけに高校が違うから会えない。
寂しいと思ったことがないといえば嘘になる。
でも世間のカップルほど毎日会って毎日メールしなくても、たまに電話で声を聞くだけで元気になれる。
たまに彼の家で一緒に過ごすだけでやっぱり好きだなあと認識できる。
会う回数が少なくても、お互いを信頼することはできる。

…そうは思っていたけれど、この状況はどうなんだろう。

「…。」
「っ、なまえ!」
ん?誰だ?

彼氏の家へやってきた私。
ドアを開ければ縺れ合う男女。
そのうちの男は私の彼氏。女は見知らぬ外人女性。
濃厚な口付け。体勢的には女性が彼氏を押し倒している。
…これをみて信じられる女がどれだけいるんだろう。

「大我、私できるだけあんたのこと信じてきたつもりだけど、さすがにこれは…」
「ッ違う!待て!アレックスも一旦離れろややこしい!
せっかく来てやったのに…冷たい教え子だな

色々といけないような気がして、一度閉めたばかりのマンションのドアに手をかけた。
大我は必死に私を呼びとめ、女性は何がなんだかわからないという様子で私を見ている。
そしてなにやら英語でペラペラ喋っている。
大我が英語ぺらぺらってなんかヘン。帰国子女だけど。ヘン。

「…とりあえず、説明してください。」





ローテーブルを前に、胡坐をかく外人女性。それに向かい合うように私、その隣に大我。
浮気現場(?)を見られて焦る大我と対照的に女性はニコニコ笑っている。
ニコニコというよりはヘラヘラ、いや、もっと軽い感じだ。

「あの…大我、この方は?」
「あー、コイツはアレックス。前に話したことなかったか、アメリカに居たときのバスケの師匠だよ。」
「…なるほど。」

中学時代に一度そんな話を聞いたことがある気がする。
たしかもう一人、兄貴がいるとかなんとかとも言ってたっけ。

んでアレックス、こいつは…その、俺の彼女。
大我にこんなかわいい彼女がいるなんて初めて知ったぞ!それにしても、お前年下好きだったんだな…
別になまえは年下じゃねえよ!同期だ同期!

完全英語なのであまり聞き取れない。
自分で言うのもなんだが有名私立に行ってるだけあってそれなりに勉強には自信があったし、リスニングも割と得意だった。
けれど、ネイティブでこれだけまくしたてられると何を言っているのか分からない。
たまに自分の名前が聞こえるから、私の話をしているんだろう。
アレックスさんは相変わらずニコニコヘラヘラしているが、大我は少しきつめに話していた。いつものことだけど。

初めましてミスアレックス。大我のガールフレンドのなまえです。えーっと…」
「ああ、心配しなくても日本語は割と得意だ。大丈夫だぞ。」
「…すいません。」

英語の成績はよくっても、やっぱりいざ本場の人と話すとなると言葉が出てこない。
今度大我に英会話の練習付き合ってもらおうかなあ、と思いつつ、アレックスさんが日本語も話せると知り、安堵した。

「つーか、なんでいるんだよ?」
「ちょっと大学のことで日本に用事があってな。実はもう1時間くらいで空港に行かなきゃならないんだが、愛弟子に会っておこうとおもってな!」
「弟子思いの師匠さんですね…。」
「だろ?!なまえは分かってる。」
「弟子の彼女の前でキスかますのが弟子思いか…?」

大我がげんなりとした顔で言う。
それもそうか!と笑うけらけらアレックスさんを前に、ふと大事なことを思い出した。
そうだ。キスだ。
私は気になっていたあのことを大我に問いかけた。

「あの、できればさっきの状況についても解説いただきたいんですけど、大我くん?」

少しいやみったらしく、ジト目+敬語で言ってみる。
大我は私の敬語が苦手らしい。距離を感じるとかなんとか、そんなことを以前言っていた。
いくらアレックスさんと浮気じゃないとしても、彼女としては見過ごせない。
キスを許したことに対してのちょっとした反抗のようなものだ。

「………別にアレックスとは浮気とかじゃねえんだけどよ、その、コイツキス魔で」
「キス魔?」

そんなにキスが好きなのか、そんな人は初めて見る。外国では割と普通なんだろうか。
首をかしげていると、目の前に居たはずのアレックスさんが私の横、大我の逆側に移動していて、振り向くとものすごく近くに顔があった。

「え」
「やっぱりかわいいな。同級生には見えないが…」

目が綺麗だなぁ、そんなことを考えながら見つめていたら一気に顔が近づいた。
後ろで大我が潰されたかえるのような声をあげる。
綺麗な目は閉じられていて、唇には違和感があって。
これはもしや。

「っ…」
「おいアレックス!」
「ああ悪い悪い、あんまりかわいいからつい」
「ついじゃねーよ!っあーマジ…」

キスされた。
頭が上手く回らない。それもそのはず、これは私のファーストキスだった。

「だ、大丈夫かよ、なまえ…?」
「うん…大丈夫、たぶん。」
「多分って…あークソ、アレックスお前…」
そんなに落ち込むことないだろー。付き合ってるんならキスくらい毎日してるんだろ?
っあのなぁ!俺はお前と違って…
まさかまだなのか!?
悪いかよ!

また大我とアレックスさんが言い合っている。
私は未だ残る唇の感覚に頭がついていかずにいた。
まさか彼氏より先に彼氏の師匠にキスされてしまうとは。
女性だからセーフ?いやそれでもな…。色んな考えがぐるぐると頭の中をめぐる。
アレックスさんに何かを捲し立てる大我をじっとみると、私の視線に気づいたらしく大我が私を見た。

「…悪ィ。」
「別に大我が謝らなくても。っていうか女性だから…ノーカンでしょ。」
「いやそれでも…つーか俺がなんか嫌。」
「…え」

俺が嫌って。
まぁ確かに目の前で彼女のファーストキスが奪われるってのはあんまりいい気分じゃないだろう。
でも相手女性だよ?そう言っても大我の眉間からしわは消えない。

そんなにうじうじしてんなら、もう今からキスすればいいだろー
「っアレックス!」
もー悪い悪い!っと、もう時間だから出るわ!じゃあななまえ、大我!仲良くしろよ!邪魔者はこれで消えるから!」
「え、あ、さようなら…」
「っ、次来るときは連絡しろよ!」

廊下に置きっぱなしだったかばんをすばやく持ち、嵐のようにアレックスさんは部屋を出て行った。
最初見たときは何してんだこの人、って思ったけれど、あんまり悪い人じゃないみたいだ。キスされたけど。
二人きりになった部屋。慣れているはずなのに、妙に居心地が悪い。
大我を見るとやっぱりさっきと変わらず眉間にしわがよっていた。
取れなくなったらどうするんだ。
伸ばしてやろうと人差し指を眉間に当て、大我の向きに体重をかけると、眉間に行くはずだった手が、正確には手首が掴まれた。

「え」

宙を浮く手首は床に固定され、大我の逆の手が私の顔に添えられる。
おかげで顔を固定された私は大我を見るしかなくなり、ばっちりと目が合った。顔が近い。
少しデジャブを覚えながらじっと大我の赤い目を見ていると、「目を閉じろ」といつもより低い声でいわれた。
ムードもくそもないけれど、この空気を壊すのもいかがなものかと思い素直に目を閉じる。
重なる唇。セカンドキスは彼氏と。
アレックスとのキスより長く、甘い。
触れ合うだけなのにアレックスの優しいキスとは違い、がっつく獣のようだと感じた。

「ん、」

息が苦しくなり、掴まれていないほうの手で大我の胸板を押すと、漸く離れる。
私の顔を固定していた手が離れ、次に腕を固定していた手の力が緩む。

「…ホントはファーストキスも俺が貰いたかった。」

やけに素直に言う大我が珍しくて、顔がにやける。
自分はファーストキスじゃないくせに、とイジワルに言うと、うっせーとぶっきらぼうな言葉が返ってきた。

「アレックスさんのはノーカンでもいいんじゃないの。」
「それはそれでなんか気に食わねえ。」
「…そっか。」

ゆっくりと伸びてきた腕に抵抗することなく納まると、満足そうに腕の力が強まった。
背中に当たる大我の心臓がうるさい。人のことはいえないけれど、やっぱり大我も緊張してるのかな。


「大我、私大我が好きだよ。」
「…俺も。」



今日はいつもより糖分多めでいきますか。











120623





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