普通、恋人の一人暮らしの部屋に来るとなったら、いちゃいちゃとか、ちゅっちゅとか、その先とか、大体のカップルはそうするんだろう。
でも、今の私にはそんな余裕はない。
少し離れた所で彼氏がだるそうにしているのも関係ない。
私には私の戦いがある。


学校の違う私たちが会えるのは、大我の部活が休みの日だけ。
私は大我のことが好きだし、出来るだけ一緒に居たいと思っている。そしてきっと彼もそうだ。
だからこうして大我から休みの日程がメールで送られてくる度、彼の家へ遊びに行く。
買い物は一人でも行ける。お金がかからなくて、人目を気にせずにいられる家デートが一番ラク。
という理由で、私たちが会うのは主に大我の家。
そして今日も変わらずそのはずだった。
…の、だけれども。

偶然なのか運命なのか、はたまた全く関係がないのか。
私の大好きなゲームの新作発売日と大我の部活の休みが重なってしまった。
大我には会いたい。彼も私に会いたいと言ってくれる。それはとても嬉しい。
…でも私にはやらねばならぬ戦いがある!
そう電話で告げた時の大我の声ときたら。

『はぁ?!ゲーム?!おまっ、ふざけ…』

思っていたよりもいい反応。
まさかそこまで私と会うのを楽しみにしていてくれたとは思わなくて、電話先で少しにやける。
そしてその様子に耐えかねて、つい予約したゲームを受け取ってからでいいなら行くよと言ってしまった。
…実際来てみればやっぱりゲームに夢中になって、逆に大我に寂しい思いをさせてしまうことになったんだけど。

「…おい」
「なに」

ゲームから手も目も離さず、耳だけを大我に向ける。
やっぱりそれが気に食わないらしく、ぬっとその巨体で後ろから私のゲーム画面を覗き込んでいた。
背後から影が降りて少し画面が暗くなり、見づらい。

「そんな楽しいのかよ、それ」
「楽しいよ」
「…俺といるよりかよ」
「今はね。でもそのうちこれにも飽きるから待っててよ。ある程度まで進んだらやめるからさ」
「…。」

おっ、イベント発生。
小声でそんなことを呟きながらプレイを進めて行く。
このゲームに飽きるのはいつになるだろうか。遠まわしに大我には飽きないって意味だったんだけど、通じてないみたいだ。
相変わらず不満げな大我は私にかまってもらうのを諦めたのか、少し離れた場所でバスケ雑誌を読み始めた。

…これで静かになるかな。
ちょっと大我に可哀想なことを考えてプレイに集中する。
戦闘開始。んー勝てるかな…。
結構固い。やっぱりレベル上げてからのほうが…

「って…なに」
「なにって、何でもねえよ」

気がつけばさっき離れていった大我が私の背を背もたれに雑誌を読んでいた。
大我の体重が私の背にのしかかる。重い。ものすごく重い。
体重差、身長差を考えて欲しい。大我190。私平均身長。
もし大我が人並みの体型ならなんとか成り立つのかもしれないけれど、日本人離れしたこの長身。
おまけにバスケやってるから鍛えてる。無理。筋肉重い。っていうか硬い。

「重いんだけど」
「…。」
「無視ですかー!」

背もたれを揺らしてやる、と背中を動かそうとしたけれど、体重がかかってびくともしない。
わざとやってんのかコレ。さっきよりもかかる体重が重くなった気もする。
私がゲームに夢中なことがそんなに気に食わないのだろうか。
呼びかけても無視。なんか腹立つ。
とにかくこのもたれてくるのをどうにかして欲しい。
このままじゃゲームに集中できない。シナリオに関わる戦闘なのに。
…少し考えて、名案を思いついた。

勢いよく腰を引いて、前へ移動させる。
案の定、大我は後ろへと倒れこむ。
が、フローリングに背をつけるギリギリで鍛えた腹筋を使って起き上がった。
倒れたら面白かったのに。いや、スポーツマンとしてはダメだけど。

「ってめ…!何す…」

大我が振り向くより前に膝だけで移動する。
そして中途半端に開かれた脚の間に納まり、スリープ状態にしていたゲーム機を開いた。
緊迫感を帯びた戦闘BGMが流れ出す。

「…は」
「何」
「いや…その」

状態的には、脚を中途半端に開いて床に座る大我の脚の間で体操座りをしてゲームをする私。
さっきは体格差のせいで重い思いをしたけれど、逆にすればむしろ安定感が生まれる。
そしてさっきよりも密着。これで大我も不満でないはず。
お互い床に座っているはずなのに生まれるかなりの身長差を感じながらも上を向くと、少し顔の赤い大我と目が合った。

「これでいいでしょ」
「…。」
「まだ文句あんの」
「いや、ねえ…けど。」

大我の納得を半ば無理矢理得てから戦闘再開。
あーギリギリいけるかも。連戦じゃなきゃなんとかなる。
必死に指を動かす私の後ろで大我はまた雑誌を読み始めた。

「…次の休みまでにはそれクリアしとけよ」
「わかってるってば」

今日1日ゲームに集中する分、次は大我に集中するからね。
そういうと顔を少し赤らめて目線を私から外して、照れくさそうにおうと返事をした。






120623





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