欲切トルテ

「…なまえちん。」


室ちんが俺たちのゆく先を指差す。
あれ、アツシの彼女じゃないのか?
まだ彼女じゃねーし、なんて言っても聞く耳を持たない室ちんは、少し重い声で言う。
見据えた先には、なまえちんと知らない男がいた。多分、年上。

「アレ副会長アル。おんなじクラスアルヨ」

劉ちんが口を挟む。
副会長でもなんでもいい。なんで、何で俺のなまえちんとってんの?
自然に目つきが鋭くなるのがわかった。

「紫原くん…?」

俯いた彼女の腕を無理矢理引っつかんで、校門を足早に出た。
副会長、と呼ばれた男を睨みつけると小さく首をかしげる。
それすらもイライラする。なんなの。
怒りに任せて、そのままずんずんと通いなれた道を歩いていった。
なまえちんは脚をもつれさせそうにしながら俺に引きずられるようについてくる。
俺が歩みを止めたのは、彼女が痛い!と叫んだ声だった。

「っ、いたい…よ…」

ぎゅっと掴みすぎたのか、離した腕には赤い跡がついていた。
俺が傷つけたの?それすらも認めたくなくて、口は開かない。
夏といえどもう空は薄暗くて、街のネオンが点り始めていた。

「あの、私…!」
「アイツ誰」

なまえちんの言葉を遮って、俺はいつもの数倍低い声で言う。
それに驚いたのか、なまえちんはびくっと肩を震わせて、地面に視線をやった。
それすらも愛しいと思う。俺に怯えてるの?可愛い。

「あの人は…その、部活の部長で…」
「ふうん。なんで部長なんかと一緒に帰ってたの」
「その、ケーキの準備してたら、遅くなって、送ってくれるっていうから…」

なにそれ。送るくらいなら俺でも出来るのに。
なんで俺に言ってくんないの。
一緒に帰ったことがないから時間が分からないとか、そもそも迷惑じゃないかとか、なまえちんからは言い訳みたいな言葉が飛び出してくる。
迷惑じゃねーし。それよりもあんな男と居られたほうが迷惑だし。自分で自分が分からない。

「なまえちんはさぁ。」
「は、はい…」
「誰のなの」

俺の?それとも…他の男の?
キスはしたけど、明確に俺の女の子になったわけじゃない。
彼女は明らかに俺のことが好きだけど、他の男の手に渡らないとも限らない。
なまえちんの白い手を、柔らかい唇を、甘い首筋を、細い肩を。
他の男になんてあげられない。全部俺が食べてやりたい。

「っ…!」

人通りが少ないのをいいことに、なまえちんを壁に押し付けた。
車が通る明るい通学路も、少し腕を引けば閑散とした住宅街の裏。
ここならきっと誰も来ない。街頭はまだちかちかと点き始めたばかり。

背の高い俺に押し付けられて、きっとなまえちんはものすごく怯えているんだろう。
今にも涙がこぼれそうな大きな目が魅力的でたまらない。
ひゅっと空気を吸い込むその喉に食らいつきたい。
赤ずきんを食べようとした狼ってこんな気持ちだったんだろうか。
アレ、俺って狼?

「紫原く…」

かぷ。
夏場だからと大きく開けられたシャツから覗く鎖骨に、噛み付いた。
ひっ、と小さな声が上がる。
ああ、怯えてる。
今から俺、なまえちんのこと食べるから。
なまえちんだけに聞こえるように言うと、掴んだ手首に力が入るのがわかった。

「ん…」

鎖骨に、肩に。
歯型と赤を残していく。
情事中の女みたいな顔をするなまえちんに興奮した。俺童貞だけど。
いつもは顔を真っ赤にするだけなのに、こんな表情も出来るんだ。
感心したのと同時に、こんな顔を他の男には見せないで欲しい、とも思った。





120804







「#オリジナル」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -