脈があるとわかったら即告白。
やっちゃんと相談した結果やっぱりいても立ってもいられなくて、次の日すぐに告白することにした。
気合はバッチリ。身嗜みもいつも以上に気合を入れて整えた。
だけど、新開くんの様子がちょっとおかしい。
朝からぼんやりしているし、挨拶をしたらギョッとされた。
昨日のがそんなに響いているのかな。
怒ったり、また好きな人を聞いてくる様子はなかったけど、やっぱり変だ。


告白をするのは昼休みと昨日のうちに決めていた。
食堂でやっちゃんと昼食をとってから、教室にいるであろう新開くんを呼び出して告白。
スタンダードに「あなたのことが好きです」と言うことにしている。
朝こそ平気だったものの、昼休みが近づいてくるにつれ緊張してきて、やっちゃんに呼ばれて食堂へ行く頃にはプルプル震えていた。
丼を乗せたお盆を持つ手が震えて、落としそうになる。
その度にやっちゃんにため息をつかれて、結局いつもより食べるのが遅くなって予定が遅れてしまった。

「じゃあ、いってきます」
「いってらっしゃい」

がんばってねと笑うやっちゃんの笑顔を胸に抱いて食堂を出た。
人の出入りの激しい食堂入り口。
人にぶつかってしまって謝ると、見たことのある顔がそこにあった。
相変わらず非の打ち所がないくらい整った顔立ち。
新開くんより少し下にあるその顔は自分で美形と言えるくらいの見事なもので。
そんな人間はうちの学校に一人しかいない。
山神とかなんとか呼ばれているハコガクイチの美形と名高い東堂くんだった。

「む!なまえちゃんではないか」
「東堂くん、こんにちは」

今から新開くんに告白するというのに、東堂くんに会ってしまうとは少し気まずい。
時間もあまりないし、適当にかわそうと逃げるように会釈をすると腕をがっちり掴まれた。
驚いて振り返ると、にやりと笑った東堂くんがいる。

「なまえちゃんちょうどいい、話があるんだが」
「えっ、あの」
「まあここじゃなんだ。場所を変えよう」
「いやその、困ります!」
「ん?ハコガクイチの美形と二人で会話だぞ?もっと喜んだらどうだ」

このタイミングじゃなければ喜べるんですけど!
離してくれる様子もなく、食堂の裏手にある広場に連れて行かれた。
二人分のベンチがあるそこはよくカップルがいちゃついていたりするのだが、今は空席らしい。
こんなところに来るなんて。東堂くんよりも、新開くんと来たかったなと失礼なことを考えながらも座らせられてしまった。

「時になまえちゃん。好きな人がいるそうだな」
「えっ?!」

顔がぼっと火がついたように赤くなった。
やはりなと頷く東堂くんは、なぜ知っているのだろう。
十中八九出処は新開くんだけれど、なぜ東堂くんに話してしまったんだ。
面倒なことになる予感を感じずにはいられない。
掴まれたままの腕を引かれて、きりりとした顔で「誰だね?」と問い詰められた。
ここで新開くんですなんてかっこよく言えればいいものの、本人の友人にいうのは恥ずかしい。
告白は本人同士だけだけれど、本人と親しい人間相手だとそれ以上になぜか勇気がいる。
腕時計からは昼休みが半分終わったことが読み取れて、急がなければと焦りを感じた。
振り払おうにも思ったより力の強い東堂くんに抵抗できない。
もう正直に言ってしまおうか。
口を開こうとした時、草を踏みしめる音がした。

「おお隼人」
「尽八、なまえ」
「…し、んかいくん」

まさかのここでご本人登場だ。
あとで呼び出そうと思っていたのに、ここで会ってしまうとは!
あからさまに慌てていると、新開くんはずんずんベンチへ歩み寄ってくる。

「なまえちゃんにだな、好きな人を聞いているのだが、一向に答えてくれんのだ」
「…尽八にも言えない相手なのか」
「えっ、それは」

東堂くんだからこそ言えません、とか。
新開くんにはこれから言う予定だったんですけど、とか。
ああもう、告白しようと思ってたのに、予定が台無しだ!
東堂くんのばか、美形だからってなんでも許されると思うなよ!
人の恋路を邪魔するやつは馬に引かれて死んでしまうんだからね、と意味を込めて睨むと、腕の力が緩んだ。
隙を見逃さず振り払いベンチを降りる。
驚いた東堂くんと新開くんから逃げるように走った。
「きょ、今日告白する予定だったのに!東堂くんのせいでできないじゃないですか!ばか!」
そう言い捨てて、校舎へ飛び込む。
階段を一気に駆け上がって息を整えていると、肩を叩かれた。
振り返るとそこにはなぜか、新開くん。

「っ?!なんで」
「はァ、疲れた…逃げないでくれよ」

自転車ならまだしも、自分の足で走るのは得意じゃないらしい。
それでも体力はあるので、息はすぐに戻り、私が落ち着くのを待ちながらも肩から手を離そうとはしなかった。

「で、誰に告白するんだ?」
「それ…聞きますか?」
「教えてくれよ。ダメなのか?」

じっと真剣な目で見つめられると目が合わせられなくなる。
逸らすなよと頬に手が添えられて心拍数が上がった。
一人で勝手にドキドキしてるみたいだ。
もしかして、今がチャンスじゃないのか?
廊下には人がいなくて、静かだ。
二人の距離も近い。伝えるなら、今しか。

「新開くん、あの、聞いてくれる?」
「聞くよ」
「…私、好きな人がいるって言ったよね」
「ああ」

それ、新開くんなんです。
ちゃんと伝わっただろうか。思わず瞑った目を恐る恐る開けた。
脈アリだよ、とやっちゃんには何度も言われたけれど、いままでふられてきた思い出が蘇って心臓が痛い。
実は新開くんが私のことを好きかもっていうのも思い込みで、本当は違う人が好きで、友達ですらいられなくなったりして。
そんな想像をして、怖くなった。
でも、目の前の新開くんは顔を真っ赤にしていて、どこか気まずそうに唇をつぐんでいる。

「………それ、本当?」
「は、はい」
「…ギュッてしても、いいかな」

返事をする前に抱きしめられた。
焦る私、耳まで赤い新開くん。
これは、期待してもいいのかな。
恐る恐る服の脇を掴んでみた。
すごく速い、新開くんの鼓動が伝わってくる。

「昨日、すごい怖かった」
「…え?」
「オレ以外の人をなまえが好きなのかなって思ってさ」

本当によかった、と新開くんは腕の力を強めた。
苦しいくらい抱きしめられて、涙が出そうになった。
体を離してからは目を合わせられなくて俯きっぱなしで。
新開くんが改めて私に伝えてくれた気持ちに胸がいっぱいになって、こらえたはずの涙が出た。

「好きだよ、なまえ」
「わ、私もです…」

伸ばされた左手を両手でぎゅっと握った。
ぽたぽたとそこに涙が落ちる。
泣くなと抱き寄せられて余計に溢れて、しばらく止まらなかった。



「やっぱり、駆け引きなんてするものじゃないね」
「オレは生きた気がしなかったよ」
「ご、ごめんなさい」
「本当はオレが告白するつもりだったのに」
「さ、先に決めてたのは私だから!」
「いーや、きっとオレが先だな。インハイ終わったらだけど」
「多分その前に私が我慢できなくなって言っちゃってたよ」
「我慢の効かない彼女さんだな」
「…ご、ごめんなさい」
「まあ、そこが好きなんだけどな」
「し、んかいくん」
「なに?」
「好きです!」
「オレも」

140308



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