「…深刻だな」
「死んでんじゃナァイ?」
「よせ荒北」
「新開さん、元気だしてください。女性は星の数ほどいますよ!」
「オレにとっての太陽はなまえだけなんだよ…」
「し、新開さーん!」

部室でくたばるオレを見ていろんな奴がぎょっとする。
そりゃそうだよな、四捨五入したら180cmの男が部室に横たわってたらオレだってビビる。
靖友に文句を言われても寿一に睨まれても起きる気にはなれなくて、ただただあの鈴の鳴るような声がリフレインした。
好きな人ができたんです。そう笑顔で話すなまえが頭から離れない。
ずっと好きだった。一年の頃から同じクラスで、二年の時にウサ吉を通して仲良くなって、ふんわりした笑顔と優しいトコに惹かれた。
想いばかり強くなるのに、恋愛なんかにかまけてる暇はなくて、ペダルを回す毎日。
だからインハイ終わってスッキリしたら告白しようって決めてたのに。
きっとなまえもオレのこと好きなんだろうなって余裕ぶってたらこのざまだ。
見てる限りなまえが親しい男子はオレしかいないし、オレのことが好きって言うならまだしも。
わざわざオレに「好きです」じゃなくて「好きな人ができたんです」なんていうあたり、お前じゃないと言われてる気分になる。
誰なんだよ。ずっと近くにいて、周りに虫除け撒いてたつもりだったのに。
情けない。あの場にいられなくて勢いのまま出てきちまったけど、怒ってると思われたよな。
これで嫌われたらお笑い者だ。友達ですらいられなくなるかも。
本日何度目になるかわからないため息を吐いたところで、足を掴まれた。
ゆっくり顔を上げるとカチューシャ。強硬手段に出るらしい。

「尽八…」
「隼人、何があったかしらんがこのままじゃ後輩にも迷惑がかかるからな。とっとと起きてもらわねば困るのだ」
「え?」

すまん、と言いながら尽八はうつ伏せに床に倒れたオレの足を持ち上げて頭の方へ持ってくる。
海老反り状態になって悲鳴を上げ、尽八の手から逃げるように立ち上がった。

「っ容赦ねぇな尽八…」
「ワッハッハお前がいつまでも唸っているからだ!さあ行くぞ練習だ!話は後から聞こうではないか!」

部室を出てオレを待つ愛車の元へ。
オレが失恋で泣いててもインハイは待ってくんないんだよな。
メットをして愛車に跨った。調子はまだ出ないけど、なんとかなる。
余計なことは後から考えよう。いつもの直線、一番先頭、泉田の隣でペダルを踏んだ。






「それは難儀だなあ」

オレの部屋に招かれた尽八はベッドの上であぐらをかいて言う。
部活が終わった後、夕方のことを一人では消化できなくて、執拗に尋ねてくる尽八に相談することにした。
オレがなまえを好きだったことを尽八は知っているし、何度か「なまえちゃんを見過ぎだ」と指摘されたこともある。
脈があるぞと言ったのも尽八で、だからこそ困っているようだった。

「駆け引きじゃないのか?あの子はあからさまに隼人のことを好きだったぞ」
「そんなことできるような子じゃないんだよな…」
「む…確かにそうは見えんな…むしろ好きだと気づいたら一直線なタイプに見える」
「オレもそう思う」
「…」
「…」

ダメだ、男二人で話してても埒が明かない。
空気はだんだん暗くなっていって、言葉も発せなくなった。
お葬式ムードの中ベッドのシーツを眺めていると、ドアがノックされる。
いつも訪ねてくるのは自転車部のメンツくらいなんだが。
鍵は開けてあるので返事だけすると、遠慮なくドアが開いた。

「邪魔するぞ」
「寿一、靖友」
「ナァんだヨこの匂い!辛気臭ェヨ!」

ズカズカと入ってきたのは寿一と靖友で、オレの不調を見兼ねてやってきたらしい。
というか、寿一が気にしてくれててそれならオレもと靖友がついてきたそうだ。
尽八と話をすれば当然この二人にも伝わるので、別段知られて困ることじゃないので招き入れる。
ことの顛末を話すと、靖友はバッカじゃナァイと鼻で笑った。

「別に誰が好きって言われたわけじゃネェんだろ!んじゃ、関係なくナァイ?」
「靖友」
「つか他に男と話してンの見ねェならお前のことかって普通思うだろボケナス」
「靖友、お前優しいな…」
「キモいこと言うんじゃネェよバァカ」

そうだよな、オレの他になまえから男の名前聞いたことないし、普通に考えれば大丈夫なんだよな。
モヤモヤしたものはまだ残ってる。でもこのままじゃダメなんだよ。
ベッドに寝転がると寿一がこの手の話題にしては珍しく口を開いた。

「好きなら好きだと伝えないのか?」
「え?」
「インターハイの後では遅いなら、今のうちに伝えればいいんじゃないのか」
「…でもな」
「新開、お前は強い。そんなことで立ち止まる男じゃないはずだ」
「ソーソ、福ちゃんの言うとおりだろ」
「たまには言うな!フク!オレも賛成だぞ」
「つまり、告れってことか?」
「そゆこと」

随分話が飛躍したようにも思うが、取られる前に唾をつけろ、そういうことが言いたいらしい。
寿一の意外な助言に乗ることにして、オレはベッドの上に座り直した。

「じゃ、どうやって告白するかだな!屋上はどうだ?」
「鍵かかってんダロ!」
「立ち入り禁止の場所は良くない。ラブレターはどうだ」
「ふ、フクの口からまさかラブレターという単語を聞くことになるとはな…」

同時刻、女子寮で同じような会話が繰り広げられていたことをオレたちはまだ知らない。


140307



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