好きな人ができたんです。と、思い切って伝えてみた。
思い立ったら行動派。好きになったら即告白。
そして玉砕。失恋。それを繰り返してきた私はもういない。
高校生になって友達に相談するという術を身につけた私は、駆け引きという技を手に入れた。

クラスで一番仲のいい(と、私は思っている)男子の新開くんに恋をしたのはちょうど高校三年生になった頃。
競争率は東堂くんには及ばないが高く、隣のクラスのマドンナも彼にお熱をあげているという噂で、普通に考えれば私みたいな平凡女子が新開くんとお付き合いできるわけがない。
このまま馬鹿正直に告白してもフられてしまって、マドンナに取られるのがオチ。しかし私には勝算がある、と、友人は熱く語る。
クラスメイトからみても、新開くんが一番親しくしている女子は私だそうで、少なくとも私には好意を持っているはず。そのなかに少しでも恋愛感情が含まれていればこっちのものだ。
そしてここで駆け引き。恋愛上級者の彼女は言う。
あえて好きな人ができたと新開くんに伝えて反応を見るのだ。
もしここで笑顔で応援するよ、なんて言われてしまえば可能性はかなり低いが、動揺したり、相手を執拗に聞かれたりしたら手応えあり、とのこと。
さて、反応はどうだろう。

「っ…マジ?」
「マジだよ」

実行したのは放課後、二人きりの教室だった。
緊張を隠し、手汗まみれの手をぎゅっと握る。
ちらりと新開くんの様子を伺うと、俯いていた。

「相手は?」
「え」
「好きなやつ。教えてくれねえの?」

前髪越しに見えた顔は、決して穏やかではなかった。
むしろ怒っているようにも見え、少しうろたえる。
普通ならば怒っている様子なら怯むところだが、作戦の結果として見れば成功に近い反応なのだ。
これは、かなりの良感触では?!
内心舞い上がりながらもそれを顔に出さず、にやける顔を必死で抑えた。
いかん、ここで実は新開くんです!なんて言ってしまっては水の泡だ。今までと変わらない。
もし相手を聞かれたら、ちょっとそっぽむいて、内緒!だそうだ。
友人テクをフル活用しているけれど、違和感はないだろうか。


「し、しんかいくん?」
「教えてくんないのか」
「まあ…時が経てばということで!ね!」
「時が経ったあとじゃおせーんだ」

新開くんは逆向きに座っていた椅子から立ち上がり、カバンを引っ掴んで教室のドアへ一直線。
随分怒っているようだ。本来なら焦る場面だけど、素直に焦れない。
だって、そんなの嫉妬してくれてるみたいじゃない?
単純すぎるかな、でも。

「どこいくの?帰る?」
「部活。なまえが教えてくれなさそうだから」

じゃあねと機嫌悪そうなまま、手をひらっとさせて出て行った。
どうしよう、予想以上に怒ってるけど、でもでも!
新開くんが廊下にいなくなったことを確認して、寮の友人に電話をかけた。

「も、もしもしやっちゃん?!」
「おー、なまえ。で、どだった?」
「よ、よかった!めっちゃよかった!ねね、今から話に行ってもいい?」
「いーよいーよ、おいでー」

機種が違うので電話はすぐに切った。
さっき新開くんがイライラを撒き散らしながら歩いて行ったであろう道を私はるんるん走っていく。
同性であればこっそり寮の部屋に遊びに行っても門限内では黙認されるので、今からなら2時間はやっちゃんの部屋で話せるだろう。
自転車を漕いで女子寮駐輪場に止めて、一応こそこそしながら入って行った。
やっちゃんの部屋の前に着いてノックするとすぐに鍵が空いて、返事を待たずドアを開けた。

「やっちゃん!」
「おーおーなまえすげー顔」
「えへへ、そんなに?」
「ゆるゆるですなあ」

まだ告白OKもらったわけじゃないのにね!
やっちゃんの部屋のベッドに座ってさっきまでのやりとりを事細かに説明した。
ちょっと怒ってたとか、どっか行っちゃったとか。
全て話終えたら、やっちゃんはすごい笑顔で背中を叩く。
あんたそれ、もう落ちてるも同然だよって。

「しかし、新開も狭い男ね!そんな怒るならその場で告りゃいーのに」
「えええええ?!で、でも告白は私からしたいんだよ…」
「珍しいタイプよね。普通は男からしてほしーって子多いのに」
「だから玉砕するのかなー」

やっちゃんに頭をうりうり撫でられた。
でも今回はきっと大丈夫!やっちゃんのお墨付き。
話題は告白作戦に移って、いつ告白するかとかなんて伝えるかを二人で考えた。

「やっぱり体育館裏?」
「あんたベタね、今日みたいに放課後ちょっと時間作ってもらったらいいのよ」
「夕焼けの教室ってのもロマンチックだよねえ…」
「まあ授業終わりじゃ夕焼けじゃないし、部活終わりじゃ暗闇だから無理だけどねー」
「ううう」

これでフられたら笑えるわ、とやっちゃんはけたけた笑う。
浮かれてたけど、その可能性もあるんだよなあ。
怒ったのも、話持ちかけてきたのに言わなかったからいらっとしただけかもしれない。
本当は私の事、好きでもなんでもないのかも…。
マイナスなことを考えるとどんどん悲しくなってしまったので、やめにした。
やっぱりプラス思考だよね!顔を上げると、それでこそあんたよとまた背中を叩かれた。
作戦会議は門限ギリギリまで続いて、帰る頃には外はもう真っ暗だ。
もう自転車部練習終わったのかな、なんて思いながら、帰路をママチャリで走った。


140306



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