静岡の大学に行くと聞いたのは昨日のこと。
そのときはそうなんだとがんばってねと言うのが精一杯で、まともに話ができなかった。
本当はわかってる。続けられないことくらい。
私は都内の大学にもう推薦が決まっているし、今更変えられないし変える気もない。
高校時代の恋人のために未来を変えられるほど熱い恋愛をしてはいないのだ、私たちは。
別れを決意したのは次の日の朝だった。
靖友のことは好きだけれど、これ以上一緒にいたら辛くなるだけだと判断したのだ。
靖友だって、そんな気持ちできっと私に進路を告げた。
気温が下がるたび別れの日が近づいていることを感じて、切なくなる。
柄にもなく女の子ばっかりの雑貨屋さんに入って選んでくれた、靖友からの胸のネックレスが日に当たって輝いた。

「再来週さぁ、休みなんだけど」

どっか行くゥ?と尋ねる靖友に胸が傷む。二人で一緒に出かけられるのも後何回なんだろう。
いつか行きたいねと私が一方的に話していた遊園地の名前を出すと、普段は渋るのに今日はあっさり快諾してくれた。
きっと、靖友ももう残り時間が少ないことを知っているからだろう。

再来週といえど時が進むのは早くて、あっという間に当日になってしまった。
いつもより気合を入れて服を選んでメイクもして、髪だって巻いてみた。
胸元にはもちろん靖友がくれたネックレス。
いつもぶっきらぼうに似合ってると言ってくれるのが本当に嬉しくて、大好きだった。

「ね、靖友プリクラ撮ろう」
「ハァ?仕方ねェなァ」

いつもはゼッテーやだ、と言うから、この箱に二人で入るのは初めてだ。
印刷されたこれはきっとどこにも貼れない。
大切にしまっておいて、いつか大人になった時、懐かしいと思うんだろうな。
補正がかかった靖友の顔に笑ったり、変に写った自分の顔をスタンプで隠したらそれを靖友に消されたり。
記念日のスタンプを貼ってみたりして、カップルみたいだな、なんて当たり前のことを思う。
ずっと部活部活でこんな当たり前のこと、全然してこなかった。
休憩に買ったソフトクリームが口についてるのをとってもらったり、恥を忍んでメリーゴーランドに乗ったり。
普段絶対に嫌がることも靖友は頷いてくれて、それがなおさら辛くなった。
靖友が好きだと実感するたび別れの日を思い出して辛くなる。
それならもう、いっそ。

最後にとベタに乗ったのは観覧車で、さっきまで騒いでいたのに、急に静かになるからドキドキした。
景色が綺麗だね、なんて言って間をもたせるけど、靖友の様子がいつもとやっぱり違う。
別れ話をされるのかなと察してしまって、地上からのネオンの光が眩しくて瞳に涙の膜が張った。

「あのよォ」
「なぁに、靖友」

泣きそうなのがばれないように、靖友を見ないまま返事をした。

「今日、楽しかったァ?」
「…うん、すごく!普段靖友全然乗ってくんないのに、今日はすごいいっぱい遊んでくれたし、メリーゴーランドにも乗ってくれたし、プリクラも撮ってくれたし、すごく、楽しかっ」

肩を抱き寄せられてそのまま靖友の腕に捕まった。
私の口は靖友の肩に当たっていて、言葉が止まる。
まるで、無理矢理言葉を紡いだのがバレているかのようだった。
普段自分からこんなことしないのに。本当にどうしたの、靖友。

「や、靖友?!ど、どしたの、へんなもの、食べた?」
「お前と同じモンしか食ってねェよ」
「だ、だよね…」

もう外は暗いから、夕焼けがなんて言い訳できない位顔が赤い。
そっと腕を回すと靖友が小さく名前を呼んでくれた。
幸せなはずなのに、純粋にそう思うことができない。
どうして優しくするんだろう。こんな時に限って。
もうすぐ終わりってわかってるのに。

「なぁなまえ、キスしていい?」
「え…あ」

返事を待たずに近づけられた唇から顔をそらし、腕をすり抜けてもとの椅子に座る。
明らかな拒絶の行動に、靖友の顔は少し不機嫌そうだ。
だけど、私のもっと酷いであろう顔をみて、靖友は怒ったりしなかった。

「っで、ンな顔すんだよ」
「だ、だって…」
「今日楽しかったんじゃねェのォ?」
「楽しかった、よ」
「だったら」
「だからもうダメなの」

空気を読まない観覧車は涙目の私を無視して地上に戻ってくる。
係員さんがドアを開けるのと同時に飛び出すと、係員さんと靖友の慌てた声が聞こえた。
カップルが観覧車のわずかな時間で喧嘩したとでも思われたのか、周りからの視線が痛い。
ヒールの私、元野球部で現在も運動部の靖友。走ってもすぐに距離は縮まり、今度は後ろから腕の中に捉えられて、動けなくなった。
うつむく私が泣いてることを靖友は知らない。

「どしたんだヨお前。オレなんかやったかヨ」
「っ、してない…」
「ハァ?!泣いてンのかオマエ」
「泣いてない…」
「ウソつくなヨ」
「なんでやさしくするの…」
「フツー気になるだろ」
「そんな風にしないでよ、だめになるよ」
「だめってなんだヨ、とりあえずこっち向け」

無理やりぐるんと回されて靖友と向き合わされた。
ひでェ顔、と涙でぐちゃぐちゃになった顔を袖で拭われる。
こんな時だって優しくて、ぶっきらぼうで、余計に涙が止まらない。

「離して…」
「離さねェ」
「帰る」
「帰らせねェヨ」

靖友のまっすぐな目が私を射抜いて、苦しくなる。
とりあえず理由聞かせろ、と頬を引っ張られた。
顔を横に振ってしゃがむと同じ高さに視線を揃えられる。
日も暮れた遊園地で男女2人、しゃがみこんでいる。

「靖友…静岡、いくんでしょ」
「いくけどォ」
「そしたら、お別れ…じゃない」
「ハァ?」
「東京と、静岡だよ。遠いよ…。」
「あーのねェ、なまえチャン」

ぐり、と強い力で頭を撫でられた。
ポロポロとタイツが濡れていく。

「東京から静岡まで、新幹線で1時間ちょっとなんだヨ」
「……」
「その気になりゃァ、日帰りでも会えんのォ」
「………」
「いままで練習とかで我慢してたなまえにはもう我慢できない?」
「………やすとも、」
「オレも本当は我慢したくねェヨ、でもなまえと別れるのに比べたら、それくらい余裕だっつの」
「……っ」
「だからお別れとか言うなヨ」
「やすともぉおぉ…」

思わずしゃがんだままの靖友に抱きついた。
足をまげたままだったから靖友はバランスを崩したけれど、抱きとめてくれた。

「靖友、すき、好き」
「……オレもォ」
「いっぱいいってもいい?」
「合鍵やるから、好きにしろヨ」
「泊まってもいい?」
「………いいヨ」
「好き…」
「オレは愛してるヨ」
「わ、わたしも愛してる!」


一目もはばからずに夜の遊園地で抱き合った。
係員さんにもう時間ですと言われて恥ずかしくなったけど、幸せだ。
遊園地を出ても夢心地は変わらなくて、繋ぎあった手はそのままだった。









靖友が甘い 甘い 甘すぎる
お前はもっと暴言を吐くべき
---愛してない/Acid Black Cherry
140210



戻る

「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -