「もうそういうことやめたらァ」

数ヶ月前、夜の繁華街でばったり鉢合わせたクラスメイト荒北くんは私のやつれた姿を見るたびに言う。
向こうは部活上がりに急な買い物に出かけたスポーツマン、私は夜の街でJKブランドを隠れたところで売り捌く夜の女。
指定じゃないなんちゃって制服を着て、化粧もした私を荒北くんは一発で見抜いて見せた。
結構変装の意味もあったのに。その場では何も言わなかったけれど、後から執拗に問い詰められて身体を売ってると明かした。その時の荒北くんの顔といえば。この世の終わり、みたいな。
お金に困ってるわけじゃない。愛情が足りないとか、さみしいとか、性欲を持て余してるとかでもない。
ただ荒北くんに自転車があるように、私には売春があるんだ。同列に並べるのは、申し訳ないけれど。

今日だってそうだった。
昨日は夜遅くまでおじさんに付き合わされて、5回くらいしたっけな。
お金はいつもより弾んでもらえたし、気持ちよかったし、おじさんとは結構仲良しだからいいんだけど、やっぱりそのあと学校ってのはキツイ。
学校用の薄い化粧でなんとかクマを誤魔化したけど、荒北くんはあの日と同じく私を見抜く。
昨日またしたんだろ、なんて。主語は言わない。問題になるから。
そうだよ、と隠さずに肯定する私に荒北くんは眉をひそめた。
クラスメイトが売春してるってそんなにいや?汚らわしい?気持ち悪いなら話しかけなくていいよ、そう言ってもやめる気配はなく。
私としては荒北くんをそんなに嫌いじゃないからいいんだけど。
もし普通の女子高生みたいな生活をしてたらきっと彼みたいな人を好きになって、自転車のレースもこっそり応援行っちゃったりしたりして、片思いするんだろうな。
実際そうしてる女の子はたくさんいるのかもしれない。でもそれは私には当てはまらないんだ。
私にはお世辞にもかっこいいとは言えないおじさんと身体を交わらせて、お金をもらって、そういうことが似合ってる。
恋なんてかわいらしいこと、しちゃいけないんだよね。

「だからさ荒北くん。あんまり私に関わらない方がいいよ。汚れちゃう」
「ア?」

だってそうなんだ。知ってるよ、私。
荒北くんのことを好きな女の子がなんで私なんかと関わってるのって思ってること。
荒北くんが私の様子を見て声を掛けるたび、教室の端で悲しそうな顔をする女の子がいるんだ。
私だってこんなんだけど女だから、荒北くんに心配なんかされて、悪い気はしないよ。
だからやめるとかではないけど、でも荒北くんは私に関わらない方がいいんだよ。
恋する女の子たちのためにも荒北くんは綺麗でいなきゃいけないんだよ。

「っ、ざけんな」

ガシャンとフェンスが鳴った。グラウンドを取り囲んで、そのまま後者裏まで続くそれは私と荒北くんの体重によく耐えている。
ぎろりと睨んだ荒北くんが怖いんだ。
純粋で、大切なものを持ってて、汚れてない。
腐った時期もあったみたいだけど、それでもまっすぐ前を見てる。
私といたら道を外すんだよ。

「…いくらなんだよ」
「え?」
「いくらで、オッサンとやってんのって、聞いてんだヨ」
「…私を買うの?」
「文句あるゥ?」
「やめときなよ、病気とかあるかもよ。検査してない」
「じゃー検査してから」
「他の女の子じゃダメなの」
「お前はオレとはやれねェっての?」
「そうじゃないけど、でも荒北くん勿体無いよ。せっかくなんだし、初めては好きな女の子に捧げなよ。恋人とか、作りなよ」
「ッセ!だァから、やらせてヨ。好きな女の子に捧げてやるからよ」

荒北くん、私のこと好きなの?
フェンスに体重を抱えたまま唇が重なった。
乱暴に肩を掴まれる。唇を合わせるだけのキスがもどかしい。
荒北くんの頭を掴んで、舌を突っ込んでやった。
フェンスと背中の間に腕を回されて、抱きしめられた。
荒北くん、荒北くん。


「荒北くん、今なら特別価格。ベプシ1本で私の一年が買えるよ」
「ハ!お買い得じゃナァイ」

返品不可、後払いはOKです。
荒北くんはこんな綺麗なのに私みたいなのを平然と抱きしめる。
シンデレラが王子様に憧れるように、私だって荒北くんに憧れてしまうのだ。
ごめんね女の子たち。私だって、仲間に入れて欲しい。





「ハ!お買い得じゃナァイ」は我ながらアホかと思った



戻る

「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -