一ヶ月ほど前に交際を開始した靖友の彼女はとんでもない美少女だった。
化粧で誤魔化された人工美少女とは格が違う。まず骨格からして違う。
鼻の頭から顎に向けて直線を引いた時、唇にぶつからなければ美しいとされているらしいけど、当然それもクリアしているし、まつ毛はつけまつげかよと言いたくなるくらいに長くて量が多い。しかも自然にカールしてるから、ビューラーいらずってやつ。
鼻もすっとしているものの小ぶりで、唇は男ならつい目を奪われる桃色。
肌も白くて体は華奢に見えるけど、腕を掴むとほのかに柔らかくて骨が当たらず固くない。
そんなお人形のような女の子がどうして靖友と付き合うことになったのかは知らない。
ただ、彼女はとんでもなく男受けがよく、女受けが悪かった。

女友達がいない、というのは見ていてすぐにわかった。
昼食は毎回別な男子に誘われていたし、休み時間も嫌でも男が寄ってくるから孤独になることはない。
靖友と付き合うようになってからは昼食は断っているらしいけど、それでも暇さえあれば男に囲まれている。
女友達がいなくても支障をきたさないのかと思えば、性別わけされた家庭科のグループ実習ではすごく居心地悪そうにしていた。
陰口をこっそり聞かせてもらうと、男に媚びた仕草がウザいとか、かわいいからって調子乗ってるとか。女子って怖いんだな。
聞こえるように言われててもみょうじさんは無視。ばさばさの上向いたまつ毛をかわいく瞬かせて今日も男を虜にしてる。
そんなみょうじさんと会話する機会が、ついに訪れた。

調理実習だったらしい。
だったらしい、というのは人伝にきいた話。
いい匂いを嗅ぎつけて、知り合いの女子に少しくらい貰えないかと尋ねたクラスに靖友の彼女はいた。
作ったのはクッキーらしい。
教室に入った瞬間に「あ!新開くん」と囲まれ、たくさんのクッキーの入手に成功する。
ラッキーだ。こういう時、普段からお菓子好きなの知られてるといいよな。
女の子たちから距離をとって靖友の彼女の方を見ると、靖友がみょうじさんからクッキーをもらっていた。
そちらに足を向けるとみょうじさんが気づいて、名乗ってもないのに大きな瞳にオレを写して新開くんと呼ぶ。
声も可愛いんだな、靖友の睨みが飛んできたけどちょっとくらい許してくれよ。
新開くんも食べる?みょうじさんの薄く桜色に染まった爪が乗せられた指がクッキーをひとつまみした。
いただこうかなとそれに手を伸ばすと躱すように払われて、すっと指を差し出された。

「はい、あーん」

オイオイ、いいのか靖友。
睨んでいるものの止めようとしない靖友を見る限り、これはセーフなんだろう。
指に唇が当たらないように恐る恐るそれを齧ると、俺の努力虚しくしっかり唇に当たるように指とクッキーが押し付けられた。
めちゃくちゃかわいい女の子に唇触られて、どきっとしない男子がいるなら紹介してほしい。
ふんわり笑顔と、唇に残った指の柔らかな感覚。
やっばいな。これはオチても仕方ない。
ドキドキ鳴る胸を押さえながら靖友を見た。また睨まれる。

「なまえは食わねェの」
「ええ、だって太っちゃうもん」
「お前はもっと肉つけろバァカ!せっかく作ったんだし、食えよ。うまいんだから」
「んん、やすくんが言うなら食べようかなあ」

指先の動き一つですら魅力的。天然なのか、計算なのか。
計算だと言われてもつい目を奪われる動きには、そりゃ女子も嫉妬したくなるなと納得がいくほどだ。
やすくん、と形作った唇はやっぱりうまそうな色をしている。
食いたいくらいだが、流石にできない。なんてったって隣の野獣が恐ろしすぎるんだ。

「やすくん、食べさせて。わたし一人じゃ食べれないの」
「仕方ねェなァ」

靖友の細くて骨張った指がクッキーを掴む。こんがりといい色のクッキーと靖友の指がなんだミスマッチだ。
指先が口元までくると、みょうじさんは靖友の指ごとそれを口に含む。
さくさくと食べてからクッキーの粉がついた靖友の指を赤い舌で丁寧に舐めた。
舌の動きすら男を誘っている。ちょっとムラっとしたのは内緒だ。
ちゅうちゅう指を吸ってから、もう一個とリクエストして、太るから食べないんじゃなかったのか?靖友は甘やかすように新しいクッキーを差し出した。
結局これは5回ほど続いて、その5回ともみょうじさんの唇は靖友の指を食んだ。
これでよく勃たずにいられるよな。靖友の精神力に乾杯だ。

「ちゅ、んん」
「なまえ、オレの指とクッキーどっちが美味いのォ?」
「ん、やすくんの指ぃ」

あ、やばい。オレが勃ってきた。
じゃあなと人目をはばからずいちゃつくカップルから逃げるように背を向けた。
最後にみょうじさんがオレの名前を呼んで、振り返る。
またね、ちゅっと唇だけでリップノイズ。
今この状況でしないでほしいな、決壊寸前なんだよ。
申し訳ないけど適当に手をひらひらしてオレは教室を出た。さて、一番近いトイレはどこだったか。




何夢なんだ
140204



戻る

「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -