天井に貼られた柱に自転車の機材を乗せるのは難しい。
2、3年になれば手慣れてくるが、1年のうちは下手で、特に背の低い部員はうまく引っ掛けられないことが多い。
きちんと金具に固定すれば落ちることもないのだが、固定出来ているかもイマイチわかりづらくなっているため、固定ができないまま置いてしまい、ごく稀にウン万円のバイクに傷をつける者もいる。
固定の甘い機材を三年が気付けばすぐに注意して直すのだが、そんなもの熱心に確認して見なければわからない。
部活中は厳しい練習に集中しているためそんな暇もなく。
だからときどき、こういう事故が起こる。


その時もホイールの固定が甘かったそうだ。
何かにぶつかったのか重力に耐えきれなくなったのか風が吹いたのか、ぐらりとホイールが揺れた。
気づいたのはローラーを終えて休憩をとっていた新開一人。
そのちょうど真下には走行距離や速度の記録をつけるためバインダーを抱きしめたマネージャー、みょうじが立っていた。
ホイールが一際大きく揺れる。
ヤバイ、落ちると気づいた新開の動きは早く、呼びかけるよりも先に体が動いていた。
支えを失ったホイールが真下に落下するまえにみょうじの体を倒すように押して、重なる。
あまり重くないホイールが音を立てて地面に落ちた。
派手な音が部室に響く。
軽いといえど、なかなかの高さからならそれなりに勢いが出るもので。
いい値段がするそれはもうひしゃげて使い物にならないかもしれない。
自分の下で状況を理解できないまま驚いた顔をしているみょうじに痛みを訴える様子はない。
怪我をしなくてよかったと新開は一先ず息を吐いた。

「っぶな…大丈夫か?」
「しん、かいくん」

柱からホイールが落ちてきて危なかったから。
説明をしようと口を開いた時にようやく新開は周りの目に気づいた。
顔を上げると全員がこちらを見ている。
ホイールの落下だ。一歩間違えれば大事故につながるし、すさまじい音もしたのだからそりゃ視線も集まる。
でもそれだけではない。部員の目はもっと別の場所に注がれている。

「新開、そろそろどいてやったらどうだ」
「ん?なにが…」
「あ、あの、新開くん」

福富が珍しく気まずそうな面持ちで言う。
いつもは張られている声が自分の下から弱々しく聞こえた。
そうだ。みょうじさんに当たらないようにしたんだけど。
福富の声で我に返り、冷静になって状況を整理した。
突き飛ばすというよりは上からのしかかる形になって、体は重なっている。
はたからみれば新開がみょうじを押し倒している状態だ。
丁寧に腕を地面に縫い付けるよう掴み、体も脚でしっかり挟み込んで。
新開さん?と泉田が恐る恐る声をかけた。

「っ、悪い!」
「ああああのいや、その、こちらこそありがとうございますホイールがそのおちてきたんですよね危ないですねあはははは」

体を起こして離れると、みょうじはすごい勢いで新開から距離を取り起き上がった。
どうみても動揺している。悪いのはこちらなのに、露骨すぎる距離の取り方にショックを受けた。
みょうじの顔は熟したりんごなような色をしていて、照れ隠すように落ちた資料や筆記用具をわたわたと大きな動作でわざとらしく拾っている
熱の冷めない顔を見て少しかわいいなと感じながら、一年への寿一の厳しい指導が入るな、と新開は立ち上がった。
…いやその前にオレかな。
いつもより鋭い目の福富に、新開は苦笑いを浮かべる他なかった。


140119



戻る

「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -