御堂筋が入部してきてから、練習量は倍以上になった。
完全優勝を目指す、という言葉に偽りはないらしい。
練習はハードだったが、こなすたび、御堂筋の実力を目の当たりにするたび、チームの空気が悪くなるのと同時にいけるかもと石垣は思うようになっていた。

御堂筋と同じ時期、別の一年が入部してきた。
同じ黒髪。されど、全く違う雰囲気。
初々しい空気をまとった彼女はマネージャー志望だった。
兄の趣味が自転車らしく知識はあり、部活があるということで興味を持ったらしい。
御堂筋が入部した後のことだったので、そのことを説明し、独裁チームになることを話し、それでもいいかと尋ねたが笑顔で頷いた。そんな子だった。

彼女、みょうじは自転車部のそんなハードな練習の疲れを癒す存在だった。
すこし間抜けなところもあるが、笑顔が明るくて体力もそれなりにあり、よく気がつく子だ。
彼女が大変そうにしていれば、休憩中の部員が進んで手伝いに行く。
そのときの申し訳なさそうな笑顔がまたイイ。
御堂筋が何を考えているのかはわからないが、彼もまた、熱心に仕事に取り組むみょうじのことをキモいと言いながらも認めていたように石垣には見えた。


みょうじはいつものように、マネージャー業に精を出していた。
運動部に必須となるタオルを抱えて、走り回っている。
自転車はよく汗をかくから、タオルは必要不可欠だ。ドリンクと共に、練習前に大量に用意しておく必要がある。
ちょこまかと物干し竿と棚の間を走り回るみょうじを石垣は我が子を見る親のような気持ちで、温かい目で見つめていた。

(頑張り屋さんやな。辛くてもよくがまんする。ええ子や。)

そんな時、みょうじの進路に一際大きな石が落ちているのに気づいた。
普通なら簡単によけることができるが、少しドジなところがあって、タオルで目の前が見えないみょうじなら、絶対転ける。そう直感した。
石垣はとっさに声を荒げ、危ないと叫んだ。
が、解き既に遅く気づかずに数歩進んだみょうじは石垣の声に振り返りながらも足を取られて、バランスを崩す。
こける、思わず石垣は目を閉じた。
だが白いタオルは宙を舞うことなく、彼女の体を何かが支えた。

「あ、りがとう…御堂筋くん」
「別に。ここで転けられてタオル汚されたら練習遅れるからや」

お礼言うなキモイと言いながら、彼女の体を支えたのは近くにいた御堂筋だった。
石垣はほっと胸を撫で下ろす。よかった。珍しいこともあるもんやな、と。
が、その後に気づいた。
マネージャーは基本的に選手が着替え終わった後の部室で着替えることになっている。
今は練習前の準備中なので、彼女はまだ制服を着ていた。
彼女がジャージに着替えていればそうはならなかった。
転けて支えられ、状態を曲げて前のめりになったみょうじのスカートは勢いのまま捲くれ上がっている。

「っみょうじさん!」
「え?石垣さんなにが…」
「ス、スカアト!めくれとる!」

大きな声を出しながらも、他の運動部もそう遠くない場所で準備をしているため、彼女の恥を気にして声を抑えた。
みょうじは御堂筋に支えられたままの体を起こし後ろを見る。
プリーツスカートが折れていて、内の白が露わになっていた。
気づいたみょうじは顔を赤らめ御堂筋から離れると姿勢をただし、腰をぽんぽんとはたく。

「っあ、ご、ごめんなさい、見苦しいものを」
「い、いや。ええねんけど」

むしろごちそうさま言うか、ラッキーというか。いやそれは流石に最低やわ石垣光太郎!
そんな思いを隠しながら、こっちこそ見てもうてすまんなと石垣は謝った。
みょうじは恥ずかしそうに赤い顔のままタオルを抱きしめると元々の目的地へと走って行く。
御堂筋は支えをなくした腕をじっと動かさないまま見つめていた。

「びっくりしたな。御堂筋…くん。大丈夫か?」
「………」
「ん?手、どないかした?」
「なんもあらへんよ石垣くぅん。それより、はよ練習しよか。時間無駄やわ」
「お、おう。せやな(なんや、いつも通りやないか)」
「(柔らかかった…。なんやあれ)」


140116



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