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新開くんがちょっと変態










お願いがあるんだが。
嫌なら断っても構わないと何度も念を押された頼みを承諾した。
返事をしたあとも何度も本当にいいのかとかしつこいくらいに聞いてきて、何十回も頷いた。
普段いつも私のわがままを聞いてくれる隼人くんのお願いごとなら、なんでも聞いてあげたいと思っていたから。
少しくらい常識から逸脱していても、私だけは聞いてあげたい。だって、彼女…だから。
肩書きにむずかゆくなりながらも招待されたのは男子寮の部屋だった。
本当はよくないんだけど、お互いに言わないと寮生の暗黙の了解になっているから、寮監にさえばれなければなんとかなるらしい。
友達も彼氏の部屋でエッチしたって言ってたし、そういうものなんだろう。
ちなみにまず言っておくと、私たちはこれからそういうことをするわけではない。
空気や雰囲気によってはわからないけど、今の所その計画はない、ということだ。
私が彼の部屋へ招かれたのは、また別の理由で。

「どうぞ」
「わあ」

意外と片付いてる。「なまえのために片付けたよ」と笑った彼の部屋は、たしかに端に普段は適当に置かれているのであろう雑誌が積まれていた。
生活感があっていい。ここでいつも隼人くんは暮らしているのか。
そう思うと妙にどきどきした。
ベッドに座るように促されその通りにすると、隼人くんは引き出しをひいて、ごそごそしていた。
早速なんだけど、と取り出したそれは漫画やテレビで見るのよりは安っぽかった。そりゃそうだ。安いんだろうな。
手錠。

「い、いいよ」
「じゃあ、手、後ろにやって」

彼に頼まれたのは、手錠をかけたいということだった。
最初言われた時は驚いたし、まさかそのままエッチするのかなって思って、処女の私は怯えたが、そうではないと必死に弁解された。
ただ単に、手錠をかけた私の世話を焼きたいらしい。
意味わからない。理解もできそうにはない。でも性癖ってそんなもんなんだろう。
むしろ、脇を舐めたいとかそういうのと比べると随分ましだ。
手を隠すように後ろへ回して隼人くんに背を見せると腕が優しく掴まれてかちゃんと軽い音がした。
手を引っ張ってみる。何かが突っかかって戻らない。
本当にかけられたのだ。驚くと同時に少し不安になった。
このまま外されなかったらどうしよう、って。
普段優しい彼だからそんなことないだろうけど、ほんの少しだけ怖くなった。

「ごめんな、嫌だろこんなの。1時間もしたら外すから我慢してくれ」

そう、申し訳なさそうに言うもんだから。
平気だよと笑って言ってしまった。それをみて彼も安心したように笑う。
うん、大丈夫。怖くない。
なんか食べる?といつもと変わらない声のトーンで隼人くんがベッドを立つ。
隼人くんが持ってきたのはお盆に乗せられた近くのドーナツチェーン店のチョコとイチゴのドーナツだった。
コップも二つお盆の上に並んでいて、その横にはオレンジジュース。
ベッドにお盆を置いて座るとどちらがいいかと聞かれたので、私はイチゴと答えた。隼人くん、チョコ好きだから。
「オレチョコがよかったからちょうどいいな」と言いながら、隼人くんはイチゴを手にとった。
運ばれるのは自分の口ではなく、私の口。
口を開けてかぶりつくとイチゴと砂糖の甘みがふんわり広がった。美味しい。
美味い?という問いに口の中にドーナツが入ったままなので口を閉じたまま頷いた。
隼人くんは満足そうだ。手錠をされたまま食べているだけなのに。
しばらく食べると(というより、食べさせられていると)、喉が乾かないかと聞いてくる。
喉というよりは、乾いたドーナツで口がパサパサしてきていたのでさっきと同じく頷くと、オレンジジュースがグラスに注がれた。
手が塞がっているから、隼人くん任せになる。
グラスが口元に寄せられて、傾けられたけれどうまく飲めない。
ゆっくり注がれていたが、口元から橙が一筋垂れた。
服に着く前に隼人くんは首筋まで伝ったそれを指で止めて、指をペロリと舐める。
お行儀がわるいな。それはこっちのセリフだと思いながらもお礼を言った。
ドーナツのお皿とグラスが空になった頃には口の周りはベタベタで気持ち悪くなっていた。
砂糖やジュースで汚れたそこはさぞ甘いことだろう。
自分で口周りをペロペロ舐めていると、隼人くんの舌がべろりと伝った。
自分がするのと他人がするのじゃ大違いだ。
時々ちゅっちゅと啄ばむようにしながら、甘いベタベタを舐めとった。
砂糖でなくて隼人くんの唾液でベタベタになった頃には口周りを濡れたティッシュで拭かれて、そのあと乾いたティッシュで水気を拭い取られた。
まるで赤ちゃんのようだ。少し恥ずかしい。
部屋の白い壁掛け時計を見ると、手錠をかけられてから45分が経過していた。
そろそろかな。やっと解放される。
バランスを崩すように隼人くんにもたれかかると優しく抱きとめられた。
見上げるといつもと変わらない顔。違っているのは、私だけだ。
目が合うと脇腹に手が添えられて持ち上がり、隼人くんと向き合うように膝に座らされた。
そこから抱きしめるように隼人くんが背中に腕を回す。
その手は私の繋がれた腕をとても優しく撫でた。

「かわいい、かわいいな。なまえ」

撫でる手はとまらない。
私の首の横に顔を乗せている隼人くんからは私の手が見えているのだろうか。
だんだん息が荒くなってきて、耳元の声にノイズが混ざる。
抱きしめられたことによって近づいた私の体は隼人くんの足の付け根に近い部分に乗せられていて、その真ん中に熱を感じて察してしまった。
私の真ん中も熱くなる。布三枚が邪魔しているものの、このまま近づけば。
押し当たるそこに体重を乗せてみた。すりすりと動かすと気持ちよくなってくる。
隼人くんのがすぐそこにあるのに、一人でしてるみたいだ。
私の息も荒くなって、隼人くんの声も変になっていた。
しばらくして時計を盗み見ると20分前に一時間は過ぎていた。
一時間経った。荒い息で言うとまたさっきみたいに脇腹に腕が回って、軽々と膝から降ろされる。
お互い、熱を抱いたままなのに。不完全燃焼だ。
すぐに鍵は外されて、手は自由になった。
久々の自由に手先のしびれを感じる。
遅くなってごめんな、と申し訳なさそうに言う彼がじれったかった。

「手錠、またしてもいいよ」

そう言った時の隼人くんの顔といえば。
少し残った痕を愛おしく感じながら、男子寮を後にした。



140110



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