海沿いにすっと抜ける道。微かに潮のにおいがするこの道が今泉は好きだった。
真っ直ぐ平面で、スプリントの練習には最適の場所だ。
景色もよく、息抜き代わりに走っても十分に楽しめる。
静かに揺れる海を眺めながら、今泉は愛車を走らせていた。
天気もいい。人通りも少なく静かだ。
心地よい気持ちの今泉を、それは刺激した。

淡い色彩の中に混ざる原色。
海水浴をするような季節でもないのに、珍しくそこには人が居た。
写真を撮っているようだ。本格的なカメラを抱えた男が、数人いる。
海を撮るにしては姿勢が低い。そして何より、その周りにはあまり見かけない格好をした人々が居た。
同じ部活のうるさい関西人や、センスの一風変わった先輩と同じ様な髪色。
およそ地毛とは思えないそれを潮風に靡かせている。

――コスプレ、ってやつか。

オタクの友人がいつか話して、携帯の画面で見せてきたアレだと思い出す。
そこには今泉が借りた――というか、押し付けられたアニメDVDの主人公の格好をした女子が写っていた。
そんな格好をして恥ずかしくないのかと、見ているこっちも恥ずかしくなった。
丈の短いミニスカート。制服で見慣れているにしても、派手な色のそれは余計に過激に見えた。
そんな集団が、海沿いで撮影している。
こういうイベントがあるとは聞いていたが、意外と身近にあるものだ。
興味はなかったが、話を聞くと少し目を向けてしまう。
季節の割に暑すぎるようなコートを着た男や、もはや水着じゃないかと言いたくなる様な露出の女がポーズを決めていた。

流石にこの世界はわからない。道に目を戻そうとしたが、それは叶わなかった。
自分の目が悪くなったのか。いや、視力には自信があったんだが。
今泉の目には、クラスメイトが写っていた。
同じ海沿い、カメラの前で。それなりの露出度の洋服を着て、髪の長さも普段より長い。
今泉はついバイクを止めた。抱えて道路から降り、海沿いへと歩いていく。
鍵のかけられる立てかけられる場所にそれを置いた。
近づいてみると、やはり彼女だ。見間違いじゃなかったらしい。
なぜ今泉が彼女に、幼馴染ならまだしもただのクラスメイトである彼女に気づいたのかというと、つまるところ普段からよく見ていたからである。
彼女は今泉には気づいていないのか、カメラに向かって学校では普段見ることの無いような顔をしていた。
唇を突き出した表情。むっとした顔に、今泉の胸が鳴る。
正直、悪くない。顔がにやけそうになるのを今泉は必死に堪えた。
普段より短い丈のスカートから覗く太腿や、白い二の腕。惜しげもなく晒された柔らかそうな腹部。
それらに目が奪われて、変態かと自分を罵った。
だが見ることはやめなかった。普段はマジメそうなあの子が。ギャップ萌え、という言葉を今泉は知らなかった。
気づくと彼女を撮っていたカメラマンが今泉を見ていた。はっとする。普通に考えて見すぎた。
まずい。そう思ったときには遅かった。
彼女と目が合う。「あ」口を開きかけたときには、彼女の顔は真っ赤に染まっていた。

「いいいいいいいいまいずみくん…」
「よ、よお。偶然だな、みょうじ」

ちょっとすみません、と彼女――みょうじはカメラマンに休憩を頼んだ。
その足でみょうじは今泉の元へ歩いてくる。つい身構えた。
今泉くんちょっととサイクルジャージを摘まれ、バイクを連れて人気の無い場所へと移動した。
移動したはいいものの、会話は無い。
彼女は俯いていて、表情は見えないものの耳が赤い。
ジャージにレーパン姿の長身の男と、派手なコスプレ衣装に身を包んだ女。
端から見れば異様な光景だった。

「…えーっと、それって、アレだよな。コスプレ…?とかいう」
「そう、です…」

蚊のなくような声だった。
無言に堪えられなくなった今泉は話題を振ってみる。
みょうじの顔は上がらない。それだけ恥ずかしかったのだろう。
確かに、近くでまじまじと見るとスゴい格好をしている。
自作なのか、すこし拙いブーツに、赤と白のサイハイソックス。
紺のスカートは短く、走れば足の付け根が、下着が見えそうだ。
セーラー服のような形状の洋服は胸当てがなく、長身の今泉からは少し谷間が見える。つばを飲んだ。
コレはやっぱ、恥ずかしいよな。普段人を気遣うことのない今泉だが、何かフォローをしなくてはと思った。

「…あー、その、かわいい、な」
「……」
「まぁ、趣味ってのは人それぞれだと思うぜ。そんなに気にすることも、ないんじゃないか」

オレも周りのヤツには言わないから。
そう付け足すと、みょうじはゆっくり顔をあげた。
学校にはしてこない、派手な化粧が施された瞳が揺れている。胸に矢が刺さったような気持ちだった。
そしてやはり次に目がいくのは谷間で。出来る限りみないように、今泉は彼女の人工の旋毛を見た。

「やっぱり、ヒいたよね…」
「そ、そんなことないぞ!オレの部活にもオタクがいるから、慣れてるしな!みょうじがそうだったってのはびっくりだけど、別にキモいとか思ってないし」

取り繕おうとして、必死になる。余計にわざとらしいんじゃないかと心配したが、みょうじは素直に受け取ったようだ。

「ありがとう…」
「…おう」

化粧がとれないように軽く目をとんとんと叩くように涙を拭って、みょうじは学校でみせるものとと同じ笑みを今泉に向けた。
カメラマンを待たせているからとみょうじは先ほどの場所に戻ろうと提案した。今泉もそれに続く。
彼女の後ろ姿からはスカートがさらに短く見えて、黒い下着のようなものが目に写り目を逸らした。

「すみません、遅くなりました。」
「おー、大丈夫?」
「はい!ちょっと、知り合いで。話してきたのでもう大丈夫です!」

カメラマンらしき男が今泉をちらりと見る。
その目にはどう見ても悪意が混ざっていて、なるほどなと思った。
確かに、突然呼び止めて本名を呼べば、関係を勘ぐるだろう。
戻ろう。みょうじに一言声をかけてバイクの元へ行こうとすれば、大きく手がふられた。

「ありがとう今泉くん!かわいいって言ってくれて、嬉しかったよ!」

ちらちらと見える脇に目がいきながらも、今泉も軽く手を振り返す。
風邪をひくなよと、自分にしては声を張って。

次学校で会ったら、あの写真をもらえないか交渉してみようか。
そう考えている自分に気づいて、今泉はまた自分を罵った。






(ヒロインの衣装は某ゲームの速い子)
140108



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