巻島君は私が家に行くといつもエロい本を読んでいる。
8割型写真のあの本を読んでいるといっていいのかわからないけど、ずっと眺めている。
エロい本というのは女の人があはんでうふんな感じに足を広げていたり、どうやったらそんなに育つんだと尋ねたくなるようなむにゅむにゅ大きくて柔らかそうな胸を寄せて押しつぶしているような写真がたくさん載っている本だ。
それもはや着ける意味ねえだろ、と言いたくなるような下着を着て本の中のお姉さんたちは巻島君を誘惑している。
巻島君は私がミニスカートを履いてこようがキャミソールを着てこようが全く興味がないようで、前に下着の紐が見えていた時もなんてことないみたいに、本の端っこが折れてるのを指摘するみたいに、見えてるといった。
見えてたのはわざとじゃないけど、そこはやっぱり私としてはちょっとどきっとして欲しかったし、あわよくばむらっとして欲しかった。
はしたないと言われるかもしれないけど、1年も付き合ってればそれくらいの覚悟はできてる。
そういうことしないの?と聞いた時はしたいの?と聞き返されてしまい何も言えなくなった。
行為を乙女から誘うのはどうかと思うんだけど、みなさんはいかがだろうか。

今日も今日とてせっかくのチャリ部の休みに巻島君ちの巻島君部屋に訪れたのに巻島君はエロい本を読んでいる。
一応ぱっと見は見えない本棚に隠してあるものの、私を部屋に招くなりすぐにその棚を開けて読み始めるので隠すつもりは全くないようだ。
少し前に同じ部活の田所君を招いていたので、その辺りにばれると面倒なんだと思う。
部屋にお呼ばれしても、特にすることはない。
いつもは暇を持て余して許可をもらってから、巻島君のお部屋の本を読ませてもらったりするけど、増えるのは自転車の本くらいで私が興味あるような本は全部読んでしまった。
いっそエロい本を読もうかなあとも思うくらいだ。
…いや、今日は違う。
今日はいつもと違って目的があってこの家に来た。
巻島君には伝えていないが、私には一つやるべきことがあった。
数日前、我が家に届いたダンボール。
過剰包装のそれを暴くと中には赤いつやつやした布に黒いレースのあしらわれた下着。
私がネットで買ったのはエッチな下着だった。
ちなみに私は普段ドットとかボーダーとかそういうのをつけてるのでこういうやらしいデザインのものを買うのは初めてだ。
しかもこの下着、ネットで買っただけあって尋常じゃないエロさ(当社比)。
サイドはゴムじゃなくてリボンで、しゅるとほどけばすぐに脱げてしまう。
ていうか布も薄いし、布がなくてレースだけで肌を隠す気がないだろみたいなところもある。
着用してみるとやっぱり心もとない。こんなんで大丈夫なのか。
サイズはピッタリあっているはずなのに、布面積が普段より少ない。落ち着かない。
それでも私はこの武器を使って、巻島君を悩殺しなくてはならないのだ。
そのためにミニスカートと、襟の深いキャミソールの上から半袖のパーカーを羽織ってきた。
彼女がこんな格好をしたら、男なら襲わざるを得ないんじゃないか?私が男なら間違いなく襲う!
作戦決行だ。まず第一に、パンチラ作戦である。
巻島君は肘をついて寝転がっているので、そこの視線にはいるように、三角座りを崩した状態で座る。
普通の三角座りだと膝から下がガードするけれど、崩すことによって見える。はず!
はしたないのは承知の上だ。多少巻島君に意識してもらうためならこれくらいする。
巻島君はまだ本に夢中のようだった。私の方を見る気配がない。
気を引くために、音を立てて荷物を引きずった。
何の音だと巻島君が本から視線をあげる。
私の下に少し目線をやってから、私の顔をちゃんと見て言った。さあこい!ムラムラする、とか!

「パンツ見えてるショ」
「あ、うん…」

そうじゃないでしょ!!
ムラムラしないの?パンツだよ?真紅の彼女のパンツだよ?
こいつ本当に男か。いやエロい本読んでるんだし男か…。
巻島君は相変わらず「髪の毛切った?」くらいのテンションだ。
ここまできたら私に魅力がないのが原因な気がしてきた。
体型もお姉さんたちほどとは言わなくても悪くはないと思うし、胸も人並みにはあるんだけどな。そんなに色気がないかな。
三角座りをやめて私も床に寝そべった。
作戦中止だ。どうしたらいいんだろう。
うつ伏せの状態で顔だけ起こして巻島君を見ていると目があった。ぱち、視線がおかしい。

「…胸、見えてるショ」
「ああ…」

そっちかい!
これはわざとではなかったけど、巻島君はやっぱりテンションがかわらない。なんのつもりなんだ。
ていうかもう興味ないならいちいち指摘しなきゃいいじゃん。部屋に巻島君しかいないんだしさ。
指摘された胸をどうにも直さずに再び巻島君の髪をじっと見ていると、また視線を感じる。巻島君に他ならない。

「なに?」
「いやだから、胸」
「…別にいーじゃん巻島君しか見てないし」

こっちは全部見せる準備はできてるのにな。
ちょっと不貞腐れて言うと、巻島君はため息をついた。
起き上がるとエロい本を閉じて本棚に戻す。
別の本を読むのかと思ったらそうでもなく、こちらへ寄ってきて私が寝ている隣に座った。
長い腕が伸びてきて二の腕を掴むと体を起こされて、腕がそのままお腹に回った。
珍しくスキンシップをとってくる巻島君に驚きながらもドキドキする。
大抵が自分からだし、こんな風に触れられたのは一年付き合って初めてではないだろうか。
みょうじなまえ、初めての快挙だ。エロ下着ってすごい。
お腹を抱きしめたかと思うとその腕はちょろちょろと私の二の腕あたりをウロウロしていた。
なんなんだと思ったら決心したかのように胸に触れる。
あれ、と巻島君を見上げると顔を真っ赤にしていた。目が、据わっている。

「まき」
「そういうことされると、シたくなるショ」

後ろから首筋に顔を埋められてキスが落とされる。
その間も手は胸をまさぐっていて、しばらくするとそれは片方ずつ、服の中と太ももに移動した。
太ももを撫でられると感じたことのないような感覚がして腰が引ける。
逃げるようにしても長い腕が逃がさないと言わんばかりに距離を詰めた。まさにピークスパイダー。

「大事にしようと思ってたけど、さすがに我慢なんねえ」

ごめん、と声がして、暗転。
キスが降ってきてから目を開けたら、玉虫色の檻の中に居た。


140103



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