靖友と、オレのクラスの女子・みょうじさんが付き合い出したという噂は瞬く間にハコガク中に広がった。
本人に確認を取ったところ、噂じゃなくてマジらしい。「マジだけどォ」と真っ赤な顔で言う靖友に、冗談でも嘘だろという気なんて起きなかった。
靖友がみょうじさんのことを好いてるってのはチャリ部内では結構知られていたことだ。本人は気づいていないようだったが、オレたちが外を走るために通る場所にある花壇に水をやっているみょうじさんをいつも見過ぎだと言いたくなるくらいガン見していて、正直一緒に走ったことのある人間だったらすぐに気づくと思う。
時々時間がずれてみょうじさんがいない時はあからさまに表情が暗くなっていたし、タイムに影響が出ることはなくてもどことなくさみしげだった。
他の部活との兼ね合いで一週間外回りの時間をずらすことになったときはそれはそれはイライラしていて、だったら練習以外でも見に行けばいいのにと思ったが、そんなこと言ってもきっと靖友は「ハァ?みょうじとか興味ねーし」と言うだろう。いやいや、興味ありありだろ。見過ぎだし。オレの教室に来たときもどこかぼーっとしてオレの話聞いてねぇなってときは女子と話してるみょうじさんのこと見てるし。ここで「話聞いてるか?」って言ってやらないオレの優しさ。1,2分は気づかないふりして、みょうじさん鑑賞をさせてやる優しさ。
オレはみょうじさんを好きな靖友を応援していたし、どうにか仲良くなる機会でもあげられればなあと思っていた。思っていた、が、どうやらオレが行動に移す前に靖友本人がなにかやったらしい。
オレの教室に来てみょうじさんをガン見しまくるのも、外回りのときに花壇の前を通ってガン見しまくるのも変わらなかったが、一つだけ変わったことがある。靖友に気づいたみょうじさんがニコッと笑って手を振るのだ。
そのときの靖友の表情といえば。お前、いつものでかい口はどうしたんだというくらい薄らに開けた口、目元まで赤くなった顔、そんな顔していいの、少女漫画のイケメンだけだぞって尽八は言っていた。


「みょうじさんのとこ、行かなくていいのか?」
「……ハァ?」

今も用もないのにオレの教室に来て、みょうじさんをずーっと眺めてる。付き合ってるんだろ、話しかければいいんじゃないのか。そう言っても、「向こうは向こうで話してっしヨォ」と頑なに近づこうとしない。
向こうは向こうで話してる?オレと寿一が話してても「なぁ福ちゃん」って割り込んでくるお前がそんなこと言うなよ、笑っちまうぜ。つまるところ、恥ずかしいんだろ。話したくて仕方ないけど、声を掛けるのが。仕方ないやつだな。
椅子を引いて席を立ち、手を拡声器替わりにしてみょうじさんの名前を呼んだ。
ガールズトークに花を咲かせていた女子の一群がこちらを向いて、みょうじさんもオレに気づく。
靖友が動揺したのを無視して、ちょいちょいと手招きするとみょうじさんは女子たちと一言二言話してからこちらへやってきた。

「どうしたの?新開くん」
「ん?いや、オレは用事は特にないんだけどよ」
「え?」
「なぁ靖友」

びくっと靖友の肩が面白いくらいに跳ねる。ギギギと首をこちらに向けて、拳を握りしめた靖友は変な顔をしていて、「荒北くん?」とみょうじさんに顔を覗き込まれ耳まで赤くしていた。
靖友がみょうじさんと話したいって言うからさ、とみょうじさんの背中を叩く。慌てた声をあげてほんのり頬をピンク色に染めたみょうじさんが愛らしい。

「あ、荒北くん?」
「アー…あのヨォ」
「なに?」
「ひる」
「蛭?」
「ひる、メシ……みょうじ、食堂だろ」
「うん、そうだよ。よく知ってるね」

そりゃ、靖友みょうじさんが昼食を食堂で食べてるって知って、やたらに食堂に行きたがってたからなあ。
どうやら靖友は昼食を一緒にとりたいらしい。誘い切れてないってのに、少しずつ言葉を選んで近づこうとしているのがまたもどかしい。靖友、お前そんなちまちま話すタイプじゃないだろ?

「オレ、今日パン買うの忘れてさァ、食堂で食おうと、おもってたんだけど」
「そうなの?」
「だから……」

だから、そうそう、そのまま一緒に食おうぜって言っちまえよ。

「…………お、オススメ教えてくれナァイ?」

そうじゃないだろ、靖友!

思わず吹き出しそうになって、口を抑えた。なんだこのヘタレ。野獣荒北はどこいっちまったんだ?
顔が「そうじゃねーヨ!」と言っているのに、みょうじさんは気づかない。ヤバい、面白すぎる。助けてやった方がいいのか?これ。
みょうじさんはどう出るんだ、肉料理でも教えてやるのか?でも靖友、みょうじさんに会うために意外と食堂いってるから、知ってるはずだぜ。
大きな目をぱちくりとさせたみょうじさんが、悩むように頬を人差し指でかく。その仕草にときめいているのか、靖友の口が少しゆるんだ。

「んー……私、いつも日替わり定食しか食べないからわかんないや、ごめんね」
「アー……そう」
「だから、もしよかったら一緒に食べない?選んであげるよ!」
「ッ!」
「ぶっ」

やべ、堪えきれなかった。
みょうじさん、イケメンすぎるだろ。靖友もこの流れで誘われるとは思っていなかったらしく、手汗がやばいのかワイシャツの腰の部分でごしごしと拭いている。

「どうする?」
「じゃあ…たのもうかなァ」
「うん、わかった。じゃあ昼休みになったら荒北くんの教室にいくね」
「ヤ、オレが迎えにくるヨ」
「いいの?」
「全然、平気ィ」

じゃあまってるね、と可憐な笑顔でみょうじさんが笑う。バキュン、聞こえたぜ、靖友。おめさんの心臓が撃ち抜かれた音が!


「新開ィ」
「どうした?よかったじゃないか、一緒に食うんだろ?寿一と尽八にはオレから言っとくよ」
「緊張しすぎて腹痛くなってきた………」
「そりゃ、昼までに治るといいな」

140413



戻る

「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -