例えばもし万が一宇宙から隕石が降ってきたとして、目の前のカップルに直撃する可能性はどれくらいあるんだろう。
今世界中で起きている事故事件戦争その他諸々の不幸なんて知りませんみたいな顔して、いや実際知らないし私も知らないんだけど、そんなヘラヘラした顔でご飯を食べている二人が憎くてしかたない。
私はこんなじめじめした日陰で昼食を、しかもコンビニで買ったやつを食べているのに、あの野朗、彼女のお手製お弁当なんか食ってやがる。あーんじゃねーよ、あーんじゃ。
憎しみは力に変わり、割り箸はもうもとの形を保っていない。半分くらいの長さのが4本出来てしまったけど、プラスチックのお弁当箱の中身はほぼ空なので気にしない。どうせ捨てるだけだ。
それを地面にぐりぐりと抉るように押し付けていると、頭上から声が聞こえた。低いくせによく通る。見上げると、パンが口に挟まったままのその顔がある。

「何そんなキレてんだよ」
「うるさい、田所にはこの恨みがわかんないんだよ」
「はぁ?」

クラスメイトの田所だ。とりあえずバカなんだけど、困ったときには役に立つやつ。嘘、本当は金城くんのが役に立つけど、なんだかんだで面倒見がいいから結構甘えてしまっている。…お昼ご飯忘れたときとか。
いつもは変な髪色のお友達と食べているはずなのに、今日は一人らしい。友達はと尋ねると、どうやらその人は後輩に用事があるらしかった。

「まだ諦めてないのか?」

私の視線の先の仲睦まじい男女を、田所の目が捉えた。
並ぶ二人のうち、男のほうは一ヶ月前に私を振りやがったヤツだった。田所に頼りまくっていたのは、このことだ。オトコの気持ちなんてまるでわからない私に、田所は不器用ながらもたくさんのアドバイスをくれた。
胃袋を掴めとか、スカートはそんなに短くなくていいとか。バカじゃないのって思っていたけど、実際彼を捕まえた彼女のスカートは短くないし、料理はすごく上手らしい。田所のアドバイス、当たってたじゃん。振られたあとに泣きそうになりながらそう言った私に、田所は何も言わなかった。

「諦めるっていうか…もうなんとも思わないんだけどさ」
「それは嘘だろ」
「そこは意地張らせてよ!まぁなに、ちょっと……ムカつく」

男が女の髪を撫でる。さっきより近くなった距離に、キスでもするのかなとぼんやり眺めていた。
男女の顔が近づいて、「あ」と思ったときには視界はブラックだ。どういうことだろう。
ぺたりと顔に手をあてると、自分のとは違う大きな暖かい手がそこを覆っている。田所の手だ。自転車のハンドルばっかし握ってる、大きい手。

「田所、」
「見るもんじゃねーよ、カップルのイチャつきシーンなんて」

メシがまずくなるってんだよなぁ、田所がパンにかぶりついたのが音でわかる。
外で交わすキスがそんなに長いわけがない。だけど田所はしばらく手を離さなくて、私は田所の手をたくさん濡らした。


140405



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