(SBCとは全く関係のない荒北姉ヒロイン)




「すいません、や…荒北いますか?」
「ん?荒北ですか?」

インターバルでパワーバーを口にしているときに声をかけてきたのは、小柄な女子生徒だった。
年下かと思ったが、タイの色的に一つ上の先輩だ。東堂ファンクラブか何かと思ったが、用があるのは靖友らしい。
靖友が?女子の先輩と?
かかわりを見つけられずに、その先輩をつま先から旋毛まで観察した。綺麗な黒髪のかわいらしい人だと思うけど、靖友が好き好んで絡みそうなタイプでもない。ていうか、アイツが女子と楽しそうに喋っているのを見たことがないしな。
ジロジロ見るオレに居心地悪そうに先輩が身じろぎするのではっとして、靖友ですねと確認してからアイツはどこだったかと見渡す。
さっき外に出てってもう大分経つから、アイツのペース的にもコッチに戻ってきていいはずなんだが…。
と、思ったところでガシャンと派手な音がした。肩を震わせる先輩と、同じようにして驚くオレ。音の方向を見ると、自転車が倒れている。もちろんロード。
色は、チェレステ。

「おい新開!」
「うお靖友、ちょうど良かった今…」

この先輩がお前に用があるって、と言おうとして、肩をガッと掴まれて強く押された。突然のことによろけたが、そうされたのはオレだけじゃないらしい。
オレの肩を掴んだ手と逆方向の手は先輩の肩を同じように掴んでいて、先輩もきゃっとかわいらしい声を上げてよろめいていた。
違ったのは、倒れそうになった先輩の肩を靖友の腕が優しく抱きなおしこけないように支えたところだ。
ありがと、と小さい声で言った先輩のお礼に目線を返すと、肩を掴んだ手に力を込めながら、靖友はヤンキー仕込の睨みをオレにきかせた。
おいおい、オレが何したってんだ?焦りに両手を靖友の前で広げ、降参の姿勢をとった。舌打ちと共に解放された肩にはまだ痛みが残っている。

「ンでお前が姉ちゃんと喋ってンだヨ」
「なんでってお前の居場所を聞かれて…っていうか、姉ちゃん?」
「ア?」

普段から目つきが悪いやつが凄むとこうなるのか、と少し怯えながら返事をすると、予想外の言葉が降ってきた。
姉ちゃん?姉ちゃんって言ったのか?靖友。
目の前の悪人面と小柄な先輩を交互に見比べる。いや…いや、いやいやいやいや。

「靖友、この先輩…お前の姉さんなのか」
「だからそうだつってんだろ」
「いやいやいやいや」

冗談はお前の入部時の髪型だけにしてくれよ、と言い掛けた言葉は胸にしまった。ただでさえ気が立っているのに、そんなことを言って煽れば一発くらいこぶしを頂きそうなものだ。
目線を逸らした先にいた先輩――靖友の姉ちゃんと目が合うと、小さく会釈をされる。なんだかかしこまってしまいオレも同じようにして頭を下げると、なぜか舌打ちが飛んできた。頭下げただけなのに。靖友の目線はどんどん鋭くなっていく。

「つか、なんの用?用事あんならメールしろっていつも言ってんだろ」
「あっ、そうだった。お母さんが今度のゴールデンウィークは帰ってくるの?って」
「ハァ?そんだけ?」
「あと靖友が部活してるとこ、見たかった…」

申し訳なさげに言われたその言葉に、靖友の表情が僅かに緩んだのをオレは見逃さない。
照れくさそうに頭をガシガシと掻く靖友としょぼんとした顔の姉ちゃんはなんだか対照的だ。思わずオレまで微笑ましい気分になりにやにやしていると、それに気づいた靖友から再びガンが飛ばされる。さっきまでの顔はどこにいっちまったんだよ、靖友。

「…走ってるとこ見てェなら、レースくればいいだろ」
「いいの?」
「別にィ、来たいならくれば」

全く素直じゃない。明らかに来てほしいと顔は言ってるのに、口から出るのはぶっきらぼうな言葉だ。
じゃあ行くね、と笑った姉ちゃんのなんと可憐なことか。姉相手に頬を染める靖友を咎めることをオレにはできなかった。

「次からは来るならメールしろヨ、こゆヤツに捕まるから」
「おい靖友、こういうヤツってどういうことだい」
「? わ、わかった…」
「んで、オレが迎えにいくからァ」
「いいの?迷惑じゃない?」
「姉ちゃんが迷って変なヤツに声かけられてする心配よりはそっちのがマシ」
「う…わかった。ごめんね」
「謝ンな」
「ありがと、靖友」

ふわっとした空気がここら一体を包み込んで、また靖友の顔が優しくなった。
わかる、わかるよ靖友。オレだってこんなかわいい姉ちゃんがいたらにやっとしちまう。うらやましいくらいだ。

だけど、オレがデレっとする度にこっち見て睨むのやめてくれ。





野地さんに捧ぐ
140325



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