ヒロイン→委員長→真波の後味悪い話です。









ぴんと伸びた背筋が綺麗な子だと思った。
手入れの行き届いた黒髪、厚いレンズのメガネが遮っている大きな瞳はくりくりしていて、睫毛だってメガネにレンズにぶつかってしまいそうなくらいに長い。
クラスの連中は目が腐ってるのか知らないけど、あの子よりみょうじちゃんのほうがかわいいよ、なんて言うんだよね。バカじゃないの。
今日もそんなバカみたいな男の告白を受けて、丁寧にお断りしてきた。食い下がられるのは面倒だったけど、邪険にも出来ない。学校での私はいい子だから。
別にこれはクラスの目の腐った連中にいい風に思われたいからいい子ぶってるわけじゃないよ。あんな奴ら、どうでもいい。
私がいい子のフリをしているのは、あの子の隣にいるため。宮原さん、クラスの委員長をしている女の子。
誰になんて言われてもいい。私は彼女に恋をしていた。



「また告白?モテる子って大変ね」
「別に、そんなんじゃないよ」

黒板を消している彼女を、一番前の席に座って眺めている。
寮に戻ったり家に帰ったり部活にいったりで、午後4時過ぎの教室は私と宮原さんの二人きりの空間になっていた。
背の高くない彼女は一番上まで手が届かないため、教卓の横の予備の机に収まっていた椅子に乗って黒板を消している。
数センチといえど私のほうが背が高いから手伝おうとしたら、「これは委員長の仕事だから」と跳ね除けられてしまった。
手伝わせてくれたっていいのに。相変わらず綺麗な姿勢、シャツに包まれたほっそりした身体のシルエットが、色濃い黒板に縁取られてより綺麗に見える。

「で、今回は誰だったの?」
「…え?」
「告白してきたコ」

そういえばそんな話をしていたっけ。誰だったかなぁ。思い出そうとしたけれど、相手の顔にもやがかかったようになって思い出せない。
まずもともと名前も知らない人だった。廊下では見ないから、先輩なのかも。でも私年上には興味ないし、もっと言うなら宮原さん以外にも興味ない。
わかんないや、とおどけて言う私に、宮原さんはため息をついた。モテるくせにフラフラしている私を心配してくれているのだ。
ため息の理由を知ったのは数週間前。「最近あなた悪いうわさがたってるわよ」と教えてくれたのは、私がたくさんの男の子と身体のつながりがあるといううわさだった。
誰が捏造したのか知らないけど、特に上級生の間で囁かれているらしい。東堂さまとヤったって、誰だよ東堂さま。
事実は当然無根なので、宮原さんにだけ否定して、それからは放置だ。火のないところに煙は立たないというけれど、実際火もなにも、東堂さまとやらを私は知らないのだ。
そんなうわさをされている東堂さまとやらも私のことをきっと知らないだろう。まったく、お互いいい迷惑だと思う。

「いい加減身を固めたら?」
「あはは、宮原さん親戚のおばさんみたい」
「そんなんじゃないわよ、私はあなたが心配だから…」
「えへ、わかってるって」

うれしいよって、そうストレートに言うと、宮原さんは頬を赤く染めて照れてみせた。かわいいなぁ。こういうところが、私の心臓をかりかりと引っかく。
同性にドキドキするって感覚、宮原さんに出会うまではまったく理解できなかった。
中学にはそういう女子がいたけれど、どうせお遊びでしょうって思ってた。女の子を好きになるなんてありえない、って。そんなの、男子にモテないから仕方なくでしょって。
だけど、全然そんなことない。男子ウケのいい私がどうして今まで誰ともお付き合いをする気にならなかったのか、よくわかった。私、宮原さんのことを好きになるために生まれてきたんだって。そう感じたんだもん。
過去の私がそう思っていたように、女の子が女の子を好きになるなんて、滅多にないことだ。だから、宮原さんに私を好きになってなんておこがましいことは言えない。
恋人になって私に愛を囁かなくなっていいから、ずっと一緒にいてほしいって。親友でもいいから、そうなりたいって、思っていたのに。

「いいんちょー」
「っ、さんがく!?」

そう思っていたのに。
教室のドアがガラリと開く。ピヨンと一房立った髪が動きにあわせて大きく揺れた。
二人きりの空間を踏み荒らすようにやってきたのは、同じクラスの男子、真波山岳だった。
なぜか半そでのシャツのボタン全開の真波はとことこと自分の席まで歩くと、「あったぁ」と間延びした声で机の中からノートを取り出す。
大きく開かれた胸元に赤面した宮原さんが慌てているのを気にせず、真波は私の座っている席の前までやってくると、机に腰掛けた。

「な、なんで前あけっぱなしなのよ!閉めなさいよ!」
「ん?ああ…忘れてた。さっき着替えようとしてたとこでさ」

あははとなんの悪びれもなく、真波はシャツのボタンを下から閉めていく。
男子のくせにほっそい指が、白いボタンをかけていくのを私はただ目線で追っていた。
それに気づいた真波が、「なに?」と私に目を合わせ首をかしげる。「別に」とそっけなく返したが、真波は何も気にしなかった。

「みょうじさんがこの時間までいるのってめずらしーね」
「宮原さんと一緒に帰る約束してるから」
「そうなんだ。仲いいね」
「……」

私が真波にどんな感情を抱いているかも知らずに、目の前の男はへらへら笑う。
長い時間をかけて綺麗に黒板を消し終わった宮原さんは、クリーナーで黒板消しを綺麗にしにいった。騒がしい音が教室に響き、真波が何か口を動かしたが言葉はそれに遮られて聞き取れない。

「今なんて」
「なにも?じゃあオレ戻るよ。じゃあね、みょうじさん、委員長」
「ちゃ、ちゃんと練習しなさいよ!」

片手がドアの向こうで居残ったように振られた。
静寂を取り戻した教室は私と宮原さんの二人きり、だけど確かにそこには他人の跡がある。

「まったく、さんがくってば…」

りんごみたいに赤い頬、尖った唇、逸らされた目線。宮原さんを包む全てが、『恋する女の子』になっている。
私は真波山岳が嫌いだ。だって、宮原さんは真波のことが好きだから。

140323



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