『今なにしてんの?』
『大学の友達と晩御飯食べてるよ!荒北くんと金城くんも一緒です』

寿一と晩飯を食いに来て、寿一がトイレに立った隙に遠距離恋愛中の彼女にメールを送ってみた。返事はすぐに返ってきて、添付された画像を開くと触れたくて仕方ない存在が平面になって現れる。
誰に撮ってもらったのか、お箸を片手にピースをするなまえと、何人かの女子。
テーブルを挟んでその後ろには真護くんと靖友を含めた男が何人かいて、ぴくりと眉が動いた。
靖友と真護くんはまあいい。オレの彼女だって知ってるし、人の彼女を横取りするようなやつじゃない。
だけど、他の男がいるのはな。嫉妬深いとか、束縛激しいとか、そう言われても仕方ないとはわかっている。わかっていても、イライラするんだよな。
いま着ているなまえの服も胸元開きすぎだし。首にしてるネックレスはこの間会ったときにオレがあげたやつだけど、似合ってるけど、ちょっと無防備すぎないか?
こんなの、遠くのおかず取ろうとして前かがみになったら見えるだろ。谷間が。オレだってたまにしか見れないのに。
帰ってきた寿一に「貧乏ゆすりはやめろ」と指摘され、自分がいかにイラついているかを思い知らされた。
だってよ、と画像を見せると、「金城と荒北か」とつぶやく。いやいや、そこじゃない。

「オレは寿一と二人で飯食ってるのに、なまえは他の男と食ってんのか…」
「オレでは不満か?」
「いーや全く。むしろ寿一でよかった」

なんでなんだろうな。二人きりじゃないってわかっててもイライラする。
オレが女の子と遊ばないようにしてるのは自己満足だし、それをなまえにも求めるのは間違ってるんだろうけど、頭でわかってても抑えが効かないっていうのか、こういうの。
注文した料理が届いてもイライラしたままだったオレより、先に我慢が切れたのは寿一の方で、そんなに気になるなら電話でもなんでもかけてこいと言われてしまった。
顔は相変わらずの鉄仮面だが、ちょっと怒ってたな、あれ。
けど感謝するぜ。お言葉に甘えて席を立ち、トイレの前でケータイを操作する。
あえて靖友にかけたのは度胸がないからとかじゃなくて、このイライラした状態でなまえと話すのがなんだか嫌だったからだ。靖友ならそのへん、やいやい言いながらもわかってくれるからな。

「もしもし、靖友?」
「…お前コッチメシっての知ってんのにかけてくんじゃねェヨ」

後ろの喧騒が遠ざかることから、オレと同じように人のいない場所に移動したんだと思う。
なまえどうだ、と単刀直入に聞くと大きなため息がマイクを通して音割れした。

「どうもこうもねェヨ、フツーだフツー」
「胸元開いてるけど見るなよ」
「お前以外ンなとこ見ねェヨボケナス、どーせ男がいたからイライラしてかけてきたとかだろ、ったくメーワクなんだヨ」

やっぱりお見通しだ。つーかオレいまメシきたところだからァと言う靖友の背後には騒がしさが戻り、切るのかと思ったらまた別の声。一言二言、話したそれは間違えるはずもない。

「もしもし?隼人くん?」
「っ、なまえ!」

声が大きくなったのがわかる。周りの視線がオレに集中していることに気づき声を潜めた。
今ご飯だよ、とさっきメールで送ってきたのと同じようなことを言うなまえに頬が緩む。
ああ、イライラしてても先になまえにかけたらよかったな。声を聞くだけでこんなに気分がかわるなんて。
今お肉きたから荒北くんはしゃいでる、とか、金城くんが福富くんによろしくって、とか。
話すなまえの言葉に相槌を入れているだけなのに、とても楽しそうだ。
そんななまえ以上に楽しいのがオレで、頬が緩みすぎてこのままじゃ席に戻れない。
これ荒北くんのケータイだからそろそろ切るね、というなまえを一言だけと呼び止める。
ネックレスすげー似合ってる、そう言うと、言葉にならないような呻き声を漏らす。照れているということはすぐにわかった。
後ろから男の声がして、それを否定するなまえの声。「彼氏からかよ、のろけるなみょうじ!」「あは、えへへ」「こいつ、ここほとんど独り身なのに!」靖友でも真護くんでもない声なのに、不思議とイラつかない。
あのね、と電話を切りかけたなまえが続けた。

「もしかしたら怒ってるかなって思ったけど、その、私荒北くんとかがいないとこで男の子と会ったりしないから、だから信用してほしいなーって」
「はなから疑ってないさ、ただオレが妬いてただけだよ」
「…妬いてた?」
「うん」
「わ、わたしも福富くんに妬いてた、から。おそろいだね。」

そういうなまえを、電話越しだとわかっていても抱きしめたくなった。
もう切るね、という声を引き止めることもできず、通話終了画面に戻ったケータイを閉じる。
トイレの前の壁を背に、ずるずるとしゃがみ込んだ。

「反則だろ、それは…」

戻った時にはメシは冷め始めていて、熱くないハンバーグを頬張る羽目になったが、なんだか気分は悪くない。
緩みっぱなしだ。そう指摘してきた寿一の顔も、なんとなく笑っているように見えた。



140313



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