御堂筋翔の朝は早い。
朝ごはんを食べてすぐ、6時には家を出るあきらくんを5時に起きて待ち伏せることに私は成功した。
ハートの自転車を連れて門を出たあきらくんの驚いた顔はすぐに「なんやこいつ」って顔に変わる。失礼な、せっかく幼馴染が迎えに来てあげたってのに。
目があってフフフと笑うと、あきらくんは自転車に跨り靴とペダルを固定させた。カチャン。

「っておい!」
「…なんやの朝から、騒がしい」
「なんやのやないやん!折角迎えに来てあげたのに」
「そらどうも。ほな」
「ほなやなーい!」

今にも走り出そうとするあきらくんの背中に抱きつき無理矢理止めると、じっとりとした目で振り返る。
およそ、朝早起きをしてわざわざ来てくれた幼馴染に向けるものではない。
離そうとしない私に観念したのか、あきらくんは両足をペダルから外し自転車を降りた。

「なんなん自分、自転車壊れたらどないすんの」
「それは…ごめん」
「素直に謝るなやキモい。朝からわざわざきてなんやねん。何か用あるんちゃうの」
「えっ…まあ、ね、うん」

改めてあきらくんから用事をせがまれるとやりづらいものがある。
反応からして今日がなんの日かも知らなさそうだ。
あのねとポケットを探り、手に触れたそれをあきらくんに差し出す。
目で文字を読むだけで受け取ってはくれない。無理矢理学ランのポケットに突っ込もうとすれば、腕を握られ阻止されてしまう。

「っなに!」
「なにやあらへん、なまえちゃんは人のポケットにゴミ入れるん?」
「ゴミやないもん!」
「どうみてもゴミやんけ」

カラーペンで《なんでも券》と書かれたそれは、私の手の中でくしゃりと形をゆがませた。
そう、今日はあきらくんの誕生日。
忘れもしない大切な日なのだ。
幼馴染として、何かプレゼントをしなければとは思っていたのだが、去年までで自転車系の自分で買える額のものはネタ切れだし、かといって他にあきらくんがほしがるものなんて見当たらない。
お金があったらタイヤとか、変な形のハンドルとか、そういうのが買ってあげられるのに。
悩んだ末に原点回帰、子供あるあるなんでも券を作って見たのだけど、気に食わないらしい。
カッターで点線を引いて切り取り線も作ったのに。これが一番手がかかったのに!

「なんで受け取ってくれへんの…」
「なんでゴミもらわなあかんの」
「っ…だ、だって今日あきらくんの誕生日やろ?忘れてんの?」

はあ?と長い首を傾けるあきらくんを睨みつける。
長い指の手を無理矢理開き、そこになんでも券をねじ込むと今度は抵抗しなかった。
すでにくしゃくしゃになったそれは点線が少し破れている。

「ほなこれ使うわ」
「はい!なになに?」
「このゴミ捨てといて」

丸められて渡されたのはなんでも券。いくらなんでもこれはひどいんじゃないか!
せっかく祝ってあげたのに。
プレゼントなんてどうでもよかったけれど、私の気持ちが踏みにじられたような気分だ。
あきらくんが冷たいのはいつものことなのに、普段より悲しく感じるのは誰もが幸せになれる生まれた日だからだろうか。

「なんでそんなことするん…誕生日なんやで」
「わかっとるわ、ボクがお母さんに生んでもらった日のこと忘れるわけないやろ」
「うう…」
「それに、こんなもんなくてもなまえちゃんは言うことなんでも聞くやん」

頭に乗せられた大きな手のひら。
見上げた大きな目の顔は、普段と変わらない。
それでもなんだか嬉しくて笑うと、首が無理矢理90度回転させられて変な音がした。
折れた折れたと騒ぐと逆にまた180度回され、逆方向を向く。
しばらく遊ばれて本格的に首がヤバくなってきた頃に解放され、私は首筋を優しく撫でた。

「いちいち物なんかいらん」
「…え」
「そこにおったら、別にええ。おらんならんかったらそれでええわ」

ほなな、と今度は止める間も無く、あきらくんは走って行った。
風だけが残されて私の頬を撫でる。
本当は気づいていたのかもしれない。物なんて、本人がいれば必要ないんだって。

「て、言う割に私が去年あげたグローブとボトル使ってるし」

かわいいとこもあるじゃないか。
こんな様を見れるなんて、幼馴染の特権、だよね。






みどうくんおたおめ
140131



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