「みょうじチャンさァ」
「は、はい」
「それ、買ったのォ?」

指差されたのは、昨日友達からプレゼントしてもらったヘアピンだ。
ピンクゴールドのかわいいデザインで、気に入ってすぐにつけてきてしまった。
友達にも似合ってる、といわれて舞い上がっていたのに、荒北くんはどうやら気に食わないらしい。
そもそもどうして荒北くんが私に喋りかけてくるのかもよくわかないし、いつも睨んでくるし、私はちょっとだけ荒北くんが苦手だった。

「も、もらったんです。友達に」
「へェー」

きょ、興味なさそうだ…。
私と話していても面白くないだろうに、どうして喋りかけてきたのだろう。
黙ってしまった私を見て荒北くんは気まずそうに頭を掻く。
東堂くんくらいトークが切れればこの場をどうにかできるのだが、私の所持しているトーク力ではそれは無理そうだ。

「アー…」
「……」
「似合ってる、ヨ」
「ありがとう…」

き、ま、ず、い!
社交辞令的に言われた荒北くんの声にそぐわないにあっている、をどう噛み砕けばいいのか。
似合ってねェヨブス、と言われなかっただけマシだと思うことにする。
遠くで友達が楽しそうにお話しているのが見えて、私もそちらに混ざりたいなとおもったけれど、この場でじゃあね荒北くんと言う度胸はない。
だからといって会話が続けられるかといえばそうではないし、これはもう荒北くんにかかっている。
新開くんでもやってきて、「やぁ靖友ちょっと話そうぜ」なんて言ってくれればいいのだが、自転車部は通りかからなさそうだ。

「そうじゃなくてェ」
「えっ?」

そうじゃなくて、どうなんだ。
というかそれは何に対してのそうじゃなくて、なんなんだ。
似合ってるに対して?私がありがとうと言ったことに対して?
似合ってねェヨブス、間に受けてんじゃねェという暗号なのだろうか。荒北くんの表情からそれは汲み取ることは不可能で、顔を覗き込むとにらまれてしまって、すぐ目を逸らした。
二人とも困り果てている。
どちらかが行動を起こさなければ、この状況は打破できない。だけど、どちらも動けない。デッドロックというやつだ。
最初に動いたのは荒北くんだった。
不意に音を立てて立ち上がり、私を怯えさせると、それに対してまた困ったような、怒っているような、そんな目つきで私を見る。
口を開きかけた彼の言葉を待つこと約1分。
何も話さないのかな。このまま休み時間が終わるのを待つばかりなのだろうか。
1分30秒くらい経って、ようやく荒北くんの口が音を作る。
空耳?聞き間違い?
そう尋ねたくなるような並んだ言葉に、言った本人が顔を赤らめている。
そうしたいのは私なのに、どうして荒北くんが。

「似合ってるし、すげーカワイイ、ヨ」

何度も頭の中で反復される声。
授業が始まってもそれは鳴り止まず、教科書に顔を埋めるハメになった。
隣に並んだ赤い顔、先生に不審がられていないだろうか。



140301



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