どうしてこんなことになっているのだろう。
みんなが帰ってしまったあとの教室にいるのは私と荒北くんの二人だけで、いつもはこの教室に並ぶ机の間隔くらい距離があるのに、今日はこんなに間近にいる。
鼻先が付きそうなくらい近づけられた顔には吐息がかかって、私の頭をぐるぐるにかきませた。
荒北くんが指先一つ動かすだけで身体を震わせる私を見てにやりと笑う姿は、さながら赤ずきんに出てくる狼さんのようだ。
耳は大きくないけど口は大きくて、よく動く。
どうしてそんなに大きいのと聞いたら、本当に食べられてしまいそうだ。

「なァなまえチャン」
「ひっ、な、なんですか…」
「ンでそんな逃げんだヨ」

何でってそりゃ、近づいてくるからじゃ。
一歩一歩と近づいてくるたびに、一歩一歩と下がっていく。
どんと背中が壁について、荒北くんの笑みがより一層深くなった。

「あ、らきたくん」
「ナァニ?」
「近い、です…」
「そりゃ、近寄ってるからァ」

ようやく顔が離れたと思ったら、今度は耳に寄せられる。
赤く染まっているであろう耳に口付けを落とされて、そのままなぞるように舐められた。
全身が甘い痺れに襲われ、咄嗟に耳を押さえようとしたがその腕も荒北くんに捕まれ、壁に縫い付けられる。

「汚いよ…」
「なまえチャンの身体に汚いトコなんてないけどォ?」

ここだって、と触れられた場所が何かなんて、言いたくもない。
漏れ出た声が自分のだと思いたくなくて唇を咬むとそれを阻止するようにぺろりと舐められた。

「っう、」
「そんなカワイイ反応してっと……本当に食べちまうぞ」
「や、だ」
「やだじゃねェ」

荒北くんから与えられる甘い刺激に酔わされて、自分じゃなくなってしまいそうだ。
耳元で囁かれる、普段のいじわるな姿からは考えられない甘い言葉も、触れた指先も、ぬるい舌も、全部が私をおかしくした。

「荒北く…」
「はぁ、なまえチャン、オレのこと好きィ?」
「やっ…」
「なァ、答えて」
「あ…う、す、すき…」

とろとろになった脳みそじゃ何も考えられない。
赤ずきんがそうされたように、祖母の肉でもてなされた私は狼さんの胃の中におさまってしまうのだった。


140223



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