※生理ネタ




刺す日光に無駄にイライラする。
体は重いし腰は痛いし、いますぐ寮に帰ってベッドに潜りたい。
でもそうさせてくれないのがインターハイ前のこの時期で。
7月も残りわずかということは、日に日にインターハイが近づいていることを示している。
こんな大事な時にマネージャーが抜けるわけにもいかなくて、ギシギシと挙動一つで痛む体に鞭打って今日もマネ業に精を出していた。

「痛い…」

外回りと中のローラーに人が集中しているタ目、外の部室周りには部員がいない。
見てないうちに、というわけではないが、たまらなくなって日陰に蹲ってしまった。
荒北あたりに見られたら「サボってんじゃネェヨブス」とか言われるんだろうなぁ。
もし見つかるなら東堂がいい。あいつはお姉ちゃん持ちだしあれでフェミニストだから、事情を話せばそっとしてもらえる。
毎月のことなのに慣れない痛みは、じんわりと私の身体を蝕んでいる。
せめてもの救いはインターハイに被らなかったことだろうか。
本番に被って迷惑をかけるよりはマシだ。
そろそろ動き出さないとな。身体を無理矢理起こそうとした時に、私の目の前に影ができた。

「大丈夫か?」

まず思ったのは、荒北じゃなくてよかった、ということだだ。
私の顔を覗き込む新開は貧血でも起こしたと思っているのか、心配そうな顔をしている。 そりゃ、部室前でマネージャーが丸くなっていたら心配にもなるか。
まだ貧血には至っていないから大丈夫だと笑うと、首に下がっていたタオルで頬をなぞられた。

「汗すげェぞ。どっか痛いのか?」
「んん、ああ…ちょっと」

それ使用済みじゃねえのかよ、と返す余力もない。思ったよりも汗が出ていたらしく、タオルは私の肌をぬるりと滑る。
痛みの波が襲ってきてお腹を抱えると、背中を規則的に撫でられる感覚。
新開って、体温高いんだな。走ってきた後だからか、ぽかぽかした手が気持ちいい。
痛みのあまり涙まで出てきて、ぎゅっと目をつぶるとそれがこぼれ、見た新開はぎょっとする。

「泣くほど痛いのか」
「ん…」
「ちょっと待ってろ」

痛みに耐えながら、歩いて行った新開を待つ。
ほらよと渡されたそれは夏なのによく売ってたな、といいたくなる暖かいココアだった。
お腹に当てると少しマシになった気もする。
こんな暑い時にココアを腹に抱くだなんて、男子からすれば狂気の沙汰だろう。

「寿一には言っといてやるよ、もうちょっと休んどけ」

新開は立ち上がるとすぐに動き出した。
頷いたはいいものの、すぐに気づく。言っとくって、なんて言うつもりなんだ。
まさか、マネージャーが生理だから休ませてるなんて言わないよな?
福富はあれで真面目すぎてこういうときに察しが悪いから、ぼやかして言っても伝わらないだろう。
そこらへん東堂ほどではないにしろ、モテる男新開はちゃんとやってくれるのだろうか。
尋ねる力もないまま、部室の壁に体重を預けた。


しばらく休憩して部室に戻ると、全員の視線が私に集まる。
そんなに長いこと休んでいたかな、と時計を見たけれど、許容範囲のはずだ。
いち早く駆け寄ってきたのは東堂で、私の前まで来るとブルーのラインの入った箱根学園ジャージをかけた。

「女子は体を冷やしてはならんぞ、夏といえど、そういうときはちゃんとあっためるんだ」

小声なのは、よくわかっていらっしゃるらしい。
東堂にだけわかる程度に頷くと、満足げに笑ってもとの場所へ戻って行った。
新開が上手くやってくれたらしい。福富には「貧血らしいな、無理をするな」と言われたし、荒北には「ちゃんと食わねェからそうなるんじゃなァい?」と言われてしまった。
お腹に当てていたココアが冷え始めた頃、それを飲みたいと言い出した新開には眉をひそめざるを得なかったけど、今日のところは感謝である。


140204



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