「なまえ先輩!」
「鳴子くん!」

後ろに友達2人を連れて、私のバイト先のファミレスにやってきた鳴子くんはいつものことながらド派手だ。
周りの人の目を引く真っ赤な髪に赤いTシャツ、それから大きな声。
店内が騒がしかったから、近くの人にしか気づかれていないようで安心した。
後ろでお辞儀をする友達2人にも挨拶してから、4人用の座席に3人を案内する。
メニューを出して念のためボタンの説明。これは友達2人のためだ。
マニュアル通りごゆっくりどうぞと席を離れようとすると、また大きな声で名前を呼ばれた。
店長がこっちを見ているのに気づき冷や汗をかきながらも、鳴子くんに向き合うと、「もう決まってますねん」とにかっと笑う。
メガネの友達はメニューを開いたばかりで顔に「まだ決まってません」と書いてあるし、目があった長身の友達は無言で首を振る。
どうみても、お二人は決まっていませんが?
それを無視して鳴子くんはドヤ顔で言った。

「なまえ先輩テイクアウトで!」
「申し訳ありませんが当店ではテイクアウト商品を取り扱っておりません」

45°のお礼で返すと、また鳴子くんの叫び声が響いた。お願いだから、声を落として欲しい。
恥ずかしそうに笑うメガネくんやため息をつく長身くんの気持ちにもなってあげてほしい。
なんでやと騒ぐ鳴子くんを窘めて、その間に決まったらしい長身くんとメガネくんの注文を聞いた。
鳴子くんは?と尋ねると、「なまえ先輩」としか言わなくて、呆れてしまう。ここはファミレスで、指名制のメイド喫茶では断じてない。

「なあなまえ先輩、なんであかんの?」
「なんでって…業務中ですから」
「その敬語もなんかいやや!なあ、やめてくださいよ!」
「お客様ですから」

唇を尖らせる鳴子くんに注文はと改めて聞くと、曲がった声でハンバーグのセットと返ってきて、ソースやセットのパンの確認をしてからようやく席を離れた。
オーダーを入れてから空席の食器を片付けに行こうとすると店長に呼び止められ、そちらへと行く。

「あれ、みょうじさんの友達?」
「こ、後輩です…高校の」

うるさいから文句を言われるのだろうか、身構えたけれどそれはなく、むしろ店長は珍しく笑顔だ。
なんでも、前に私がいない時に来店して、面倒なお客様を追い返してくれたらしい。
店としては手出しできないし、客同士の争いということで最小限の被害で収まったというから店側からは感謝なわけだ。

「お礼したかったんだけど、受け取ってもらえてなくてな。だから、お前行ってこい」

チェーン店なのにこんなことやってもいいのか?バイト先がなくなってしまうことを恐れながらも、渡された人気商品のポテトと完成したオーダー品を持って鳴子くんたちの席へ。
お待たせしましたと言うと鳴子くんの目が輝いた。各々の席に注文の品を置いてから、真ん中にポテトを置くと三人が首を傾げる。

「この間、助けてもらったみたいだから…お礼に」
「ん?この間てなんや」
「ほ、ほら鳴子くん!怖いお兄さんたちを追い返してたでしょ、禁煙席でタバコ吸ってた…」
「ああ!そんなこともあったなあ!あの時はせっかくきたのに、なまえ先輩おらんで残念やったわー」

鳴子くん、君は昼食を取るためにここに来ているのじゃないのか?
何はともあれお礼を受け取ってもらえなければ、私が店長に文句を言われる。
突き返される前にそういうことでと立ち去ろうとするとまた呼び止められ、鈍い動きで振り返った。

「いやだから、これは受け取れませんて!」
「ダメだよ鳴子くん、せっかくなんだからもらっときなよ、美味しいよ」
「そら知ってますけど!」
「私も好きだもんそれ、ほらほらお食べ。じゃないと私がまた店長にちくちくやられる…」

悲壮感を漂わせて押すと、効いたらしい。仕方なく、と鳴子くんはお礼を言ってからそれに手を伸ばした。
メガネくんと長身くんもありがとうございます、とポテトに手を伸ばす。うん、ミッションコンプリートだ。
お盆を抱え今度こそ帰ろうとしたがそれは叶わず。
これ何回目?と思いながら振り返ると、鳴子くんのちょっとにやにやした顔。

「ほな、これ受け取ったりますから、なまえ先輩テイクアウト通してもらえます?」
「そんなものないって!」
「なんでですか!」
「今業務中だから!」

余計に面倒なことになった。
一歩も引かない鳴子くんと、どうにかしてくれという目線を送ってくる黒髪二人にどうしようもなくなってしまい、ため息を付く。接客業でため息はNGなんだけどな。

「…テイクアウトはできません」
「なんでや!」
「今は業務中だからです!」

だからその、業務後ならまた別ですよと。
そういうニュアンスがうまく通じていればいいのだが、鳴子くんは結構頭が悪いから。
せめて長身くん、君くらいはわかってくれと意味深に視線を送ったが、気付いてもらえるだろうか。
今度席を離れた時は呼び止められなかった。店長にお礼を言われ背中を叩かれてから、別の席へと向かう。
喫煙席にいても聞こえた禁煙席からの大きな声。さて、わかってくれたみたいだけど、この後どこに行こうか。


140131



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