※ウサ吉が擬人化







「おきて、起きてください」

体を揺すられる感覚。確か今日は部活も学校も休みのはずだ。
たまの休みなのだからもう少し寝ていてもいいだろうと、それを振り払うように布団を被る。

「今日は休みだろ…」
「もう!隼人!」

勢い良く布団を引っ剥がされて全身に寒気が襲った。
寒さで一気に頭が覚醒する。部屋の窓から差し込む日光に苦しみながらも目を開けると、目の前にはくせのある茶髪の女の子。
自分よりも幾つか年下に見えるその子は知り合いの心当たりもなければ見たこともない。
だけどはっきりとわかることが一つ。このくりくりした瞳、小さい口、それからふわふわの毛。

「うさ…吉?」
「えへへ、おはよう隼人!」

間違えるはずもない、ウサ吉だ。
にっこり笑う女の子はベッドの上でスウェット姿のオレに近づくとぎゅっと腕を絡めてきて、すんすんと匂いを嗅いで幸せそうに笑う。
腕に当たるのは小さい体の割に…柔らかいもので。
ドキドキしながらも引き剥がすと悲しそうな顔でオレを見上げた。うるうるした瞳はやっぱり他ならないウサ吉のそれだ。

「ちょっとまて、なんで君…その、ウサ吉だよな?」
「うん、そうだよ!」
「なんでここに」
「昨日雨が降るからって連れて帰ってきてくれたじゃない!」

確かにそうだ。昨日は天気予報で強い雨風があると聞いたから、風邪を引いちゃいけないと思い寮にこっそり連れ帰った。そこまでは記憶にある。
だけど、オレが連れ帰ってきたのは約1歳のウサギで、決してこんな女の子じゃない。
確かにウサ吉が人間になったらこんな子だろうな、というイメージにぴったりだけれど、ウサ吉はただのウサギのはずで。

「なんで、人間に?」
「えっとね、いつもわたしを可愛がってくれる隼人に恩返しがしたいなってお祈りしたらね、こうなってたの!」
「お祈り…」

随分とあやふやな言い分。何時からとかどうしてとか聞いてもウサ吉はかわいく首を傾げるだけで、全くわかっていないらしい。
ウサ吉はまだまだ幼いウサギだったけれど、この女の子も随分と幼いようで、物言いは小学生のそれだ。
気を抜けばすりすりと頬を寄せるウサ吉を追い出すわけにはいかなくて、仕方なくそのままにしてしまっている。
時計を見ると10時を過ぎたくらいで、そろそろ起きないと時間を無駄にしそうだなと体を無理矢理起こした。
腹も減っていて、今にも虫が鳴きだしそうだ。
この時間じゃ寮の飯は12時まで食えないし、何か買いにいくしかない。
スウェットのままでは出かけられないので適当な服に着替えようと、洗濯して渇いたのを部屋に持ち込んでそのまま置いていた服を掴みスウェットを脱いだ。

「きゃ!」
「ん?」

ウサ吉が小さく声を上げる。目を小さな両手で多い、見まいとしている。
着替えるなら言ってよ、とさっきオレから引き剥がした掛け布団を被って丸くなったのを確認してから下も着替えた。
もういいよと布団の方を向くとウサ吉はまだ赤い顔でオレを見上げて、頬を膨らませている。

「レディーの前で着替え出さないでよね!」
「悪い、ウサ吉も女の子だもんな」
「そうだよ!なのにさ、性別確認する前にウサ吉なんて名前つけちゃって」
「それは悪かったよ」

ぷんすか、と効果音が出そうな怒り方をするウサ吉を適当にたしなめて、そろそろ腹が限界だと部屋を出ようとするとそれを察知したのか、伸ばした腕で服の裾を掴まれた。
どこにいくのと不安げな顔で見つめられてしまえば飯を買ってくるというだけなのに口が開かなくなって、どこにもいかないよと抱きしめたくなってしまった。
誰かがいなくなることに敏感なのだろう、さっきとは比べ物にならないくらい目を潤ませたウサ吉は今にもその涙が零れそうで、普通の気持ちじゃ見てられなかった。

「…仕方ないな」

ケータイを取り出して、かけたのはチームメイトの番号だ。
ベプシを奢ってやるからパシられてくれと頼めば一度目は断られたが、同席していたらしい寿一もコンビニに用事があるということで仕方なく了承してもらえた。
ケータイを閉じてウサ吉の隣、ベッドに座るとぱああと顔を輝かせ、また抱きついてくる。

「隼人、すきすき、どこにもいかないでね」

こんな寂しがりやな子にしちまったのは、オレのせいだろう。
母親を奪ったオレがちゃんとその分を埋めてやらなければならない。
抱きしめてベッドに倒れると、ウサ吉の最高の抱き心地と暖かさにやられてすぐに眠ってしまった。
目が覚めたらウサギに戻ってるかもしれないな。でも、今だけはもうちょっとこの温もりを堪能したい。


「頼んだくせに寝てんじゃネェ!」と怒鳴り声に起こされて、周りを見渡すとベッドの真ん中で丸くなるウサ吉。
夢だったのか夢じゃなかったのか、ダンボールの中にウサ吉を戻してひとなでして考えたけれど、結局答えは出なかった。


140203



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