「福富くん福富くん!」

朝練も終わって、教室へ戻ろうとクラスが隣の寿一と廊下を歩いていると、元気な声が耳に届いた。
二人して振り返った先には明るい笑顔の特徴的な女の子で、寿一に女子が話しかけるってのも珍しいのに、それに対して寿一が普通に対応しているのにも驚いた。

「朝練習してるの見かけたよ!すっごく速かった!」
「見ていたのか」
「うん、声かけようかなって思ったけど、真剣だったからやめちゃった。今度差し入れしにいってもいい?」
「勿論だ。ありがとう」

ニコニコ笑う女の子と寿一の無表情が対比的すぎて面白い。
思わず吹き出すと、それに気づいた女の子がオレを見上げた。
女の子は大袈裟に驚いて、たった今オレに気づいたような反応をする。
いや、実際そうなのかもしれない。
寿一に誰?と尋ねる女の子はオレのことをつむじからつま先までチェックするように見ている。

「同じ部活の新開だ」
「よろしく。えーと」
「あっ、部活の人?!なんか見たことあると思った!みょうじなまえです!どうぞよろしく」

差し出された手を握っていいものか。寿一に視線をやったが意味はわかっていないらしい。
まあいいかと握ると、思ったより力強い。
邪気のない笑顔から、悪意があるわけじゃなくこれが素なんだろうと感じた。
さっきオレをじろじろ見ていたのは、どこかで見覚えがあったかららしい。
寿一の部活を見ているなら当たり前だ。疑問に思うことは何もない。

「新開…くんは、福富くんと仲良いの?」
「中学から一緒だからそれなりにな」
「うそ!」
「本当だよ」

また大袈裟なくらい驚く彼女は、これが通常運転なのだろうか。
ハイテンションガールは半分くらい体をのけぞらせて見せる。
だけど寿一は平然としているし、いつも尽八にするみたいに騒がしいと言ったりはしない。
尽八は…まあ、騒がしい上にウザいってのもあるんだけど。

「中学から…そう…じゃあ、な、仲良いんだね?」
「ん?まあな」

どこに対してなのか、ショックを受けたような顔だ。
オレと寿一を交互に見比べる目は忙しない。
そっか、と落ち込んだようにつぶやくみょうじさんをどうすべきか。
今度は伝わったらしく、オレの視線を受けて寿一はみょうじさんの頭を撫でる。

「新開は、中学の頃から同じ部活で、共に走ってきた仲間だ」
「うん…」
「だがお前は、一番の友達だろう」

その言葉にみょうじさんは顔を上げる。表情は明るくて、さっきと同じく眩しいくらいに輝いている。
友達と言われたのがうれしかったのか?それにしては…。
ただ言えるのは、寿一が『友達』と言ったことに対して喜んでいるんだろうけど、はたからみたらそれじゃすまされないように見えることだ。
寿一の頬が少し緩んでいるのに気づいたのは、きっと中学からの付き合いだからだろうけど、微かにみょうじさんの赤い頬に、友達でいいのか?なんて聞きたくなるのはオレが特別鋭いからじゃない。

「だよね!新開くんは仲間で、私はお友達!」
「そうだ」
「うんうん、そういうことだから新開くん、私は福富くんのお友達です!よろしくね」

さっき握ったばかりの手をまた差し出されて、また強く握られた。
よくわからない子だな。寿一とはタイプも正反対だし、どうやって仲良くなったのか、気になるくらいだ。
でも、お似合いだぜ。意味深にウインクを飛ばしたけれど、やっぱり通じてない。
まあ今はいいさ。そのうち並んだ手が繋がれるんだろうな、なんて予感しながら、三人で廊下を歩いた。

「寿一、みょうじさん、じゃあオレはここで」
「ああ、また放課…」
「新開くん福富くんのことしたの名前で呼んでるの…?」
(…面白いけど、ちょっと面倒な子だな)



140202



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