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お礼夢はSBC番外編です。

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1年生の話


「ねえ、泉田さん…お願いがあるんだけど」

両手でパンと手を合わせられてしまえば断ることなどできない。仕方なしに渡された書類をクリアファイルに入れて彼のいるであろう場所へと向かった。
7月の階段は空が近づくほど暑くなるように感じて、首筋を伝う汗をクリアファイルを持っていない方の手の甲で拭う。
この蒸し暑い空間でひんやりとしたドアノブに手をかけ、捻ってから思いっきり押すと、

「アダッ」
「きゃっ…ご、ごめんなさ…うわ!」
「…人の顔みてうわはないんじゃナァイ?泉田チャン」
「すみません…」

私は彼に会うためにここまでやってきたのだ。尻餅をついた荒北くんに手を差し伸べ起こそうとすると、逆に腕を引っ張られ私も地面に膝を付くことになる。
勢いのまま倒れそうになったところを抱きとめられ、「すみません」と顔を上げたときに予想以上に荒北くんの顔が近くて、咄嗟に離れようとしたがクリアファイルを持っている方の手をいつの間にか掴まれていて、それは叶わなかった。

「あ、荒北くん?!」
「まァたパシリかヨ、真面目な委員長チャンはヨ」
「パシリって…その言い方やめてよ」

クリアファイルの中身を取り出すと、パラパラと銀のクリップで綴られたプリントの内容を荒北くんは流し見る。
大きなフォントで印字された題字には『合宿申請書』と記載されていた。

「合宿…?」
「盗み見かヨ」
「ごっごめんなさい」
「ハッ、 ビビリすぎだっつーの」

お前が持ってきた時点で内容バレて困るようなもんじゃねーだろ、と額を拳の尖ったところで突かれ、思わず声をあげてそこを抑えた。
赤くなっていないだろうか。俯いて抑えたまま動かない私に荒北くんはやりすぎたと思ったのか、「大丈夫ゥ?」と顔を覗き込んでくる。
すこし心配そうなその様子に、なんだか仕返ししてやりたくて。

「い、痛い…」
「ッハァ?そんな強くは…おい、ちょっと見せてみろ」
「っ…!」
「痕になってんじゃ……………おい」
「っくく、」

目があった瞬間、心配そうな顔から一転、一気に不機嫌が貼り付けられた。
反対に、私は笑いがとまらない。だって、自分でやったくせにめちゃくちゃ心配してるんだもん。
私をただの真面目な委員長だと思っていた荒北くんは私がこんなことをするとは思わなかったのか、眉尻をピクピクとあげている。

「よくやってくれたナァイ?」
「あっ、荒北くんがっ、はは、だってっ…も、やばっ…!」
「オイ笑いすぎだろうが!テメ、マジ心配して損した…!」
「荒北くんて面倒見いいんだね、ヤンキーだったのに」
「ッセ!泉田チャンも委員長のくせに、ただの真面目チャンじゃねェじゃねーか」
「委員長がみんな真面目だと思ったら大間違いです!」

まだ面白さが抜けなくて、お腹を抑えて校舎のてっぺんで笑っている私を荒北くんはずっと睨んでいた。
それからさっき渡したプリントを「だったら」と私の前に突き出す。一瞬見えなくなった荒北くんの顔がすぐに退けられたプリントから覗いて、細い目と視線が交わった。

「イチイチこんなパシリ受け付けてんじゃねーヨ」
「パシリじゃあ…ないよ?」
「パシリだろ」

これは歴とした『お願い』であって、と口を挟もうとすると、手で口を抑えられ、もごもごとその中で空気が振動した。

「見ててうぜェんだヨ、クラスの連中が何から何までお前に任せ切ってンのォ」
「ん、んん」
「あゆことする不真面目さがあんならァ、ちょっとは手ェ抜け」

ぱっと離された手、深呼吸をしてから、話を聞きながらずっと思っていたことを言った。


「…それって荒北くんがクラスメイトと打ち解ければ解決するんだけど」
「ッセ!」

このパシリ…じゃない、お願いはもう少し続きそうです。

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