「千鶴」

「何ですか土方さん」

「お前、これどういうことだ」


俺が席をはずしてる間に誰かの手によって悪戯されたみてえだ。千鶴がやるわけはないと分かっていても、名前が書いてある以上確かめにいかないわけにはいかねえ。


「はい?」

「俺の机の上に『莫迦』っていう紙切れが置いてあったんが」

「見せてください。…確かに書いてありますね。しかもご丁寧に最後に雪村千鶴、とまで」

「まあ、俺もお前じゃねえとは思うんだが。一応、な」

「はあ。えーと、あの私じゃありません」

「だろうな。ったく多分総司の野郎だろうな、すまねえな疑ったりして」

「いえ、構いませんよ」

「俺が席はずしてる間にこんな事するたぁな。しかも千鶴の名前出すなんて、な」

「沖田さんにしては珍しいですね」

「そうだな…。そんじゃあ、まだ仕事あるからよ。疑って悪かったな」

「いえ!もし何かあったら呼んでくださいね!」

「ああ、ありがとよ」


会話を終わらせ、俺は自分の部屋に戻る。ああ、またこれからあの大量の仕事をやらねえといけないのか。気が重くなる。出来れば一日位やすみてえ、とは思うが副長の立場の俺はそんな弱音は吐けないし、近藤さんを上に押し上げるためにもこれは大事な仕事なのだ。出来ることはやって近藤さんを上に押し上げることが俺のやるべきこと、やりたい事なのだ。


「さて、さっさと片付けちまうか」


書類に目を通し、筆を持ち書き始めようとしたとき、


「ひーじかたさーん!総司です」


総司がきやがった。さっきのを謝りに来たのか。それともさらに馬鹿にしに、若しくは邪魔をしに来たのか。


「総司か、いい所にきたじゃねえか。入れ」

「はい。て、何でそんなに怒ってるんです?」

「これお前だろ」

「勿論僕ですよ」

「そんなに胸張って言えることじゃねえだろ」

「だって、それは土方さんの為なんですよ。仕事ばっかりで千鶴ちゃんと会えなくて土方さんが寂しいかなーって。お茶運んでくれるときにすこしだけ顔見るだけは出来てるの知ってますけど、最近千鶴ちゃんとそれ以外で話してないでしょ。だから折角良い機会だと思ったのに」


突然来て何を言い出すかと思えば。馬鹿にしに来たのでもなく、邪魔をしに来たわけでもない。おそらく結果を聞きに来たのだろう。そしたら、土方さんのためだなんて言いだすじゃねえか。俺はどういう意味なんだかまったくわからねえし、頼んだ覚えもねえ。


「どういう意味だ」

「だから、土方さんの為に千鶴ちゃんと話す時間を作ってあげようとしたんですよ」

「だからそれはどういう意味だって聞いてんだ」

「だって土方さん千鶴ちゃんのこと好きなんでしょ?」

「は」


俺が千鶴の事が好きだと?そんなこと誰にも言ってねえし、そんな風に思われることを事した覚えがない。


「僕分かりますよ。土方さんの態度見てたらあの平助でも気付くって言うか…。夜ごはんの時も千鶴ちゃんのことすごい贔屓してるじゃないですか。土方さんが外出してるときだって、必ず千鶴ちゃんに何か買ってきてるし。あ、あと昨日千鶴ちゃんに寒くないかって自分の布団貸してあげてるとこ見ましたよ。千鶴ちゃん遠慮してたけど」

「お前…」


そうは思ってなかったのだが、気付かぬ間に千鶴を贔屓していたらしい。いや、贔屓って言うのもおかしいが。千鶴は女なのだ。この男ばかりの屯所で唯一の女だ。そんな千鶴のためにそんくらいしてやったっておかしくねえだろうが。最初はそんな気さらさら無かったのだが、月日がたつにつれ何というかそういう気持ちは生まれるもんだ。そうはいっても、昨日の布団の件は、そういうつもりでやったんじゃない、と言ったら嘘になる。そんなところまで見てるなんて総司も怖いやつだというか、鋭いやつだというか。


「だから、僕が土方さんのためにと思ってやってあげたのに、土方さんてば無駄にしちゃうんですもん。あーあ、土方さんなんかに気を使うんじゃなかったかな」

「総司、てめぇにしちゃあ珍しいじゃねえか」

「そうですか?いつも土方さんに対してすごく素直ですけど?」

「笑わせんじゃねえよ。まあ、でも今回はありがとな。結局話せなかったけどよ。その気持ちだけは受け取っておく」


すごく珍しいと思う。あんなやつ、総司に素直に礼を言っちまうなんてな。今まで総司に礼を言ったことなんてあっただろうか。


「ありがとうなんて、珍しいですね。じゃあつまり千鶴ちゃんが好きってこと認めるんですね?」

「は?」

「確信出来なかったんで、僕が見たのをただ伝えただけなんですけど、まさか本当に好きだなんて。へえ、ただ綱道さんが見つからなくて、千鶴ちゃんが可愛そう、とかだと思ったんだけどなあ。まあ、でもあんなの見たら誰でも好きなんだ、って思いますよね。ああ、多分平助は分かってないと思いますよ。適当に言っただけだし。でも左之さんは分かってるんじゃないですか。あ、あとはじめくんも」


騙された。もうアイツは気付いてるんじゃなかったのか?あんな口ぶりだったら気付かれていると思っても仕方がない。あそこで素直になった俺も悪かったんだが。


「ああ、そうかよ。ったくお前の嘘には騙されちまうよ。まあでも、そこまでばれてんなら仕方ねえ。本当は隠しておきたかったんだが、俺は千鶴が好きだよ。お前らが気付くずっと前からな」

「やっぱり。ま、精々頑張ってくださいよ。あ、新八さんとか許さないかもなあ。大切な妹分だし」

「新八?あいつは別に構わねえだろうよ」

「言い切れるんですか?」


言い切れるんですか、なんて言うが新八なんて気にしてねえよ。大切な妹分だろうが何だろうが、好きになったら好きになったで仕方ねえじゃねえか。でも好きになったって言っても相手がそうでなければ意味がない。千鶴が俺の事嫌いだったら意味なんてないし、もしかしたら千鶴は今の時点で俺じゃなくて、斎藤や総司、平助の事が好きかも知れねえ。そうしたらもう叶わねえだろうが、それも仕方ねえ事なんだと思う。だから、今俺が出来るのは、そんな新八がどうのこうのに対して言い切れるとかではなくて、千鶴に対して何かすることなんだと思う。


「言い切れるとかじゃねえだろ。俺が出来ることをするまでだよ。そしたら新八だって何も言わねえだろ。ていうか、新八は関係ねえよ」

「ふうん。まあ頑張ってくださいよ、僕応援してますし。あ、でも僕も千鶴ちゃんのこと好きになっちゃうかも」

「そうならそうで構わねえよ。もしそうなって千鶴がお前のことを好きになったら俺の何かが足りなかったって事だ。そんときゃお前の勝ちだろうよ」

「勝ちだなんて。勝負じゃないんですから、それに今の時点では僕は応援してるだけですし」


もしこれで総司が本当に好きになって、千鶴も総司の事が好きになるかもしれねえ。そんなら俺は潔く身を引くし、総司のことを恨もうなんて思わねえ。だから、そうならねえために今、俺が自分で出来ることをするだけだ。

(土方さんが千鶴ちゃんの事好きだって本人に言っていいですか?)
(ばかやろう!駄目に決まってんだろうが!)


20110129


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