龍之介が好きだ。総司が龍之介はあんまりだよなんていうけれど、私はあいつが大好なのだ。勿論顔、もあるけれど私は龍之介の性格が好き。結構情深くて、多分少しは素直…なんだと思う。そんな私と龍之介の出会いは高校に入学してから二年目の春。運が良のかは分からないが同じクラスになった。龍之介は、窓側の席、そして私は廊下側の席この時点ではまだ好きとか嫌いとか意識していたわけではなかったのだ。ただ、井吹龍之介という人がこのクラスにいるんだな位にしか思っていなかった。それがいつからだろう、こんな風な大きな恋心変わったのは。私自身にも分からない、のかも知れない。気がいたら好きだったのだ。好きに理由なんていらないなんて言うが確かに、と思ったりもする。でも強いていえば多分、あのときだと思う。

「あの、井吹…だよね?」
「ああ、そうだがどうかしたか」
「いや特に用事はないんだけど、」
「は?なら何で」
「んー、何となく。私井吹だけなんだ、話したことないの!」
「へえ、それだけか?」
「えっ、うんまあ怒った?」
「は、そんな事で怒るかよ!」

その時の笑顔が忘れられないのだ。これだけでは単純、なんて笑われるかもしれない。結局顔なの?と言われるかもしれない。でもそれだけでは無いのだ。あれは確か体育祭の時だったかな。少し恥ずかしいのだが、あの選抜で走るあの競技で綺麗に転んだのだ。恥ずかしいなんてものじゃない。あんなに大勢の前で、言ってしまえば全校生徒の前で転んだのだ、正直言うと死にたくなった。でもそこで助けてくれたのが龍之介だった。あの時は吃驚した。だってあんなくだらない会話しかしていないただのクラスメイトでしかない私を助けてくれるだろうか。あんなに大勢の前で。私だったらみて見ぬ振りをするだろう、仲がよいとは言えないクラスメイトだったら尚更だ。普通に考えたらそうである筈なのにあの男、龍之介は私を助けてくれたのだ。あの行為が私の心を射止めたのだ。

思い出すと、笑顔が素敵だったから、助けてくれたからで好きになるなんてやはり単純だなと少し思う。こんな風に龍之介を好きになった訳なのだ。しかしあの体育祭に助けてもらったあと話したことと言えば、何かすごくくだらない話のような。なんだったかな。

「いぶ…龍之介!」
「何だ?ていうか何で名前で呼んでるんだ」
「いいじゃん!仲良しの証」
「は?意味が分からないが」
「た、体育祭の時助けてくれたじゃん…」
「あー、お前が盛大に転んだときの」
「忘れてください…でもありがとう」
「いやまあ、クラスメイトとして当然というか」

そうだ、思い出した。あの時のお礼をしたんだった。くだらない話ではない、私が龍之介の事を龍之介と呼び始めた大切な話だった。多分こんな大切な話をくだらない話だと思ってスッカリ忘れてました、なんていったら総司には絶対に笑われるだろう。あいつ性格最悪だから。しかしそんな事はどうでもいいのだ。まずは自分から動き出さなくてはいけない。これから先龍之介の気持ちを知るためにはそう遠くなかったらいいな。その為には私の性格から考えると直球、しかないのだ。遠回しに言うのも、人に言ってもらうのも、メールや電話でいうのも私は嫌いだ。だって、相手の様子が分からないじゃない。相手の反応がわからないなんて、嫌だ、というか怖い。どんな反応するのかな、とか嫌がったりしないかなとか。たから直球しかないのだ。ここまできたら出会って少ししか経っていなくても言うしかない。正直に言おう、そしてうまくいけば龍之介とお付き合い…できたらいいと思う。




「龍之介、私龍之介の事好き、かも」
「は?好きかもってなんだよ」

これは今日の朝の話である。つい、かもなんて言ってしまった。恥ずかしい!結局直球しか無理なんて言っても完璧には無理なのだ。考えが甘かったんだと思う。あああ、恥ずかしすぎて今すぐ消えたい。早く今日の授業終わらないかな。今日は終わったら光の早さで帰る!今日が金曜日で本当に良かった。と、いろいろ考えても授業はまだ30分も残っている。この授業が終われば帰れるが30分はすごく長い。そんなことを考えてるときだった。前の子から何か回ってきた。ちょ、今授業中だよ!私ずごく真面目って訳じゃないけど、こういうのは少し、ほんの少しだけ苦手。

「井吹くんからみたい」
「は、龍之介から?」
「ん、そ。私はしっかり渡したからね」
「う、うん。ありがと」

龍之介から…今一番話したくないし会いたくないし見たくない人からだ。内容は『さっきかもなんて言ってたけど、何なんだ?放課後聞いてやるから待ってろ』だった。何て男らしいんだ。これは誰でも惚れてしまうだろう。私はその前から惚れてるけど。こんな素敵なことがあるなら苦手なんて撤回する。苦手なんかじゃない、むしろ好き。

「おい、さっきのなんだったんだ?」
「あっ、えーとね」
「からかってたんだとしたら俺、」
「ちがう!ちがうよ!からかってるんじゃないの!ただ、」
「ただ?」
「恥ずかし…じゃなくて、心の準備不足!そう準備不足だったの!」

嘘をついてしまった。準備不足なんて嘘だ。前日、いやもう3日前からどう言おうか考えていたのだ。私としたことが…やってしまった。

「何かよくわかんないが、まあ」
「うん、」
「これからも仲良くしてくれ、でいいのか?」
「う、あっと、そうじゃなくて…」
「何だ、はっきり言ってくれないか」
「私、龍之介の事好きだよ。かもじゃなくてほんとに」
「お、おう…そうか」
「あっ、迷惑だったらごめん!」
「や、別に構わないが」
「じ、じゃあ今日は私帰るね。返事はまだいいから」

龍之介にはあとで良いから、という言葉を残して先に帰った。どうしてもあの場所には居られなかったのだ。恥ずかしすぎて。あの場所にいたら今頃私は、と考えただけで少し怖い。恥ずかしすぎてどうにかなってしまったんじゃないか。

「あああ、思い切って言ってみたけどあんまり良い反応じゃなかったなあ」
「んーそうだなあ。俺も突然だったから吃驚したっていうか」
「だよねえ、誰だって吃驚だよね」
「まあ、俺はそういうの含めてお前のこと好きだけどな」

ありがとう、優しいんだねと言おうとしたとき、ハッと思った。私は今だれと話しているのだ。そういうのを含めて私のことが好き?何を言っているのだ。まるでさっきの出来事を全て知っているかのような。

「もしかして、」
「よ、よう。さっきは悪かったな。その、あんな返事の仕方で…」
「えっと、あの。別に良いんだけど、いつからいたの?」
「そうだな、最初からか?」
「そう…」
「ま、まあでも俺さっき言った通りだから」
「え」
「だから、俺別にお前のこと嫌いじゃねーってこと」
「じゃあ…?」
「まだ付き合うとか分かんねーけど、これからそうなれればいいんじゃないか」

予想外だった。恋人になるか、気まずくなるか。私はその二択しか考えていなかったのだ。だからこの結果は素直にうれしい。この出来事で私が一方的に龍之介が好きってわけじゃないと分かって少し安心した。もしあれで私ばかり好きだったらと思うと、こんな風には絶対ならなかったと思う。だから私は、ここまでこれたんだから諦めないでこれからも頑張ろうと思う。だから総司、少しで良いので馬鹿にしないで応援してください。


(総司、…って訳なんだけど)
(んー、まあ頑張ればいいんじゃないの?)
(まあ頑張るけどさあ!)
(あいつじゃなくて僕のこと好きになっても良いんだよ?)
(私龍之介一筋だから!)
(そうなんだ、まあ僕も千鶴ちゃん一筋だけど)

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