×
第3回BLove小説・漫画コンテスト結果発表!
テーマ「人外ファンタジー」
- ナノ -




私の両親は優しい人だった
母の個性は人の心が読めるものだった
父の個性は手のひらから水を出せることだった

母はよく笑う人だった
父は母のことをとても好きだった

私が生まれてもそれは変わらなかった
同じくらい愛情を注いでくれてきたと思う

あれは私が3歳の頃4回目の誕生日をもう少しで迎える日だった

誕生日プレゼントは何がいいか、ケーキは何を食べたいかそんな話をしていたと思う
手をつなぎながら商店街を歩いていた

私の個性はその時既にあって、母と同じ物だと思っていた
医師からもそう診断された

帰り道、それは突然の事だった
知らない男が母の横を通り過ぎた時
隣で笑っていた母が真っ赤に染って倒れていた

何が起きたのか分からなかった

「お、かあ、さ」

道を歩く人たちの叫び声が酷く遠くに思えた
赤いものがドクドクと流れている
真っ黒な服を来た男が走り去っていく後ろ姿が見えた
母を刺した瞬間その男と目が合った
目を見開き、ニタリと笑っていた


白いブラウスを来ていた母は真っ赤なブラウスに染まっている

何が起こったの、どうして倒れてるの

「っ、かなめ、大丈夫?」

「おかあさ、お母さん!!赤いの、止まらない!」

水溜まりみたいになって赤が広がる
鉄の匂いが濃くなる
噎せ返りそうなほどの鉄の匂い

「だれか!!!だれかぁー!!助けて、助けてよぉ!!」

「いいから、かなめ」

「良くない!良くない!!!お母さん、お母さん!!」

「怪我、無い?」

「お母さんの血が、血が止まらないの!」

怪我なんかしてない、してるのは母だけだった

「よか、た」

よくなんかない
何も良くない

なんで誰も助けてくれないの
なんでお母さんが
なんで、なんでなんで

「ごめ、ね…たんじょ…び、お祝い、できなか、たな」

「できる!おかあさんといっしょに、けーき食べるの!!」

「おと、さ…によろしく、ね」

母は最期まで笑っていた

アイツが、あの男が母を殺した
殺してやりたいと思った


暫くして母は死んだ

よく分からない男に
何もしていない母を殺された
私がこの日、出掛けたいと言わなければ死ななかった

ヒーローは来なかった
いや、正確には来たが母が死んだ後に来た
なんでもっと早く来なかったのか

世の中は理不尽だった

そして私はなんの力も持たないこどもだった

その時はそう思っていた


父は母の死を受け入れられなかった
壊れていった
優しかった顔は虚ろになり
やつれていった

そこで気が付いたのだ
父は母に依存していたのだと
母がいないと父は生きていけなかったのだ
父を壊してしまった

「静香、静香…」

散らかった部屋
電気も着いていない真っ暗な部屋の隅で座って日々を過ごした

父は母の写真を見てずっと泣いていた
私の事なんて目に入らない様だった

父は弱い人だった

悲しいとは思わなかった
誕生日を迎えてもケーキは無いしプレゼントも無かった
当たり前だと思った


私の個性は母と同じだったとその時まで思っていた
父に母と会わせてあげたいと思った
ふと、父と目が合った

その瞬間、父は母がいた頃と同じ目をして笑った

「ああ、静香!やっぱり君はここに居たんだね!ずっとここに居たのかい?心配したんだよ」

母はいない
少なくとも私の目の前には
しかし父の目には見えているのだろうか

その後、近所で1人で話をしている父を不審に思った隣人が警察に通報したのだ
そして父は精神科に入院させられた

周りには最愛の妻を亡くして精神を病んだ夫に見えたのだろう
だが違う、確かに心を病んでいたのかもしれないが母を見えるようにしたのは私だ

それを知った刑事は私に色々と検査をさせた
そして私はあのマンションに監禁されたのだ


危険な個性であり父親を廃人とした要注意人物として
後に知ったことだが母を殺したあの男は死んだらしい原因不明で、道路で倒れていたのをヒーローに発見された
私が、あの時思ったことが男を殺したのかもしれない


父の洗脳は今も解けてない
閉鎖病棟に入院しているままだ

プライバシーもない環境に置かれても私はなんにも思わなかった
私が悪いのだ
父を壊して、人を殺した


母はなんで笑っていたのだろう


私は、やさしいひとが嫌いだ
いつだってやさしいひとは自分を犠牲にする




prev * 22/44 * next





TOP