相澤さんが退院した
相変わらず包帯巻だ
これが前に言っていたミイラ男というものか
「お久しぶりですね…苦しくないんですか」
「苦しくないわけないだろ」
「ですよね」
電話で話した時以来、個人的な会話は無かった
退院するまでは山田さんが送ってくれていた
特に何も無かった
「お前、あの足自分でやったらしいな」
「あぁ、聞いたんですか?」
私の言葉に何も返さずにじっと私の目を見る
本当のことだし隠す必要はないだろう
「血溜まりの中にいる相澤さんを見て母を思い出しました」
私の言わんとしていることが分かったのだろう
息を飲む音がした
「身体を動かすために痛み刺激を与えるために刺した。それだけの事です」
「お前は死にたいのか」
「どうなんでしょう」
死に場所を探しているのは変わらない
でも今は少なくとも以前より退屈はしていない
「ただ相澤さんに死んで欲しくなかった、それだけですよ」
母の二の舞はごめんだった
「あぁ、そう言えば私あの時分かったことがありましたよ」
「ん?」
「優しい人達は嫌いです」
私の言葉に相澤さんはいつも通りの変な顔をした
「私にはヒーローは向いてないんじゃないかって思います。自分を犠牲にしてまで人を守り抜く、自己犠牲って自己満足なんじゃないでしょうか。誰かを守り抜いて、守ったつもりで敵と戦う。そこに何が残るんですか?死んでしまったら終わり。ゲームと違ってコンティニューはできない」
こんな考えの私に、ヒーローになることが出来るのか
「じゃあなんでお前は自分の足を刺すという選択をした」
「相澤さんが死んでしまうと思ったからです」
「お前はその場にいれば救援にきたヒーローたちが助けてくれた筈だ」
「血まみれになって、虫の息になっている人を放置するのは母のようになるのではと思って落ち着かなかったんです。だから確認しなければと、あのままの思考でいたら多分私は今ここに居ないです」
自分の鬱々とした感情を止めるためにした手段だった
もし相澤さんが倒れていなかったら私は母を思い浮かぶようなことは無かっただろうし、自傷することもしなかった
ただあの場ではそうして方がいいと思った
グルグル思考に飲まれていってたら個性が暴走していたかもしれない
現に施設の防犯カメラを爆発させてしまったし
「私の個性、多分自分が考えているより良くないものですね。刑事の人達があんな目で私を見ていたことは正しかったんだと思います。最近おかしいと思うことが多いんです。個性に関しても、自分自身も」
「確かに個性が強くなっている事も定期検診で結果も出てる。それはかなめが高校に入ってからだ」
「それはいい事なんですか」
「お前の経験としてはいい事だと思うよ」
「私はそうは思えない」
色んな経験をして行くうちに気付くのだ
私はここにいるべきではないと
「人の思いを知る度に私には理解できない事ばっかり」
「そうだな。お前は多分あの時から時間が止まってるんだ」
「刑事さんたちに引き取られた時からですか?」
「あぁ、勉強においての知識は多くある。でもそれを理解するための過程がわかってない。だからあいつらの話を聞いても理解できないんだ。小さい子供は色々知りたい時期ってのがある。お前は多分今その段階なんだよ」
「……私は15歳だけどそうじゃないってこと?」
「経験してこなかったことが多すぎて体の成長と心の成長が違うってことだ。勉強とは別にな」
「じゃあ私はクラスの皆とか相澤さんにもっと聞いていいの?」
「お前から色々聞いてきてくれたら嬉しいと思うんじゃないか」
「そうなんだ」
私はやっぱり普通とは違う
人生経験が豊富ではないという事か
それはそうだ
今度時間があったら聞いてみようかな
やっぱり相澤さんはやさしいひとだった
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