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スキンシップは殴られた

…最近妙に及川先輩の距離が近いと思う
勿論物理的にだけど
この人にはパーソナル・スペースという概念が存在していないんじゃないだろうか

現に今も私が絵を描いているすぐ側に椅子を持ってきてじっと眺めている

「…あの、」
「んー?どうかしたの?」

いや、どうかしたの?じゃないんですけど…

「……近くないですか?」
「えー?そう??」

まさかの無意識?
……まぁ、及川先輩は人との距離が近いような気がするけれども

「あんまり近付かれると集中できないんですけど」
「え、それって俺が近くにいるとドキドキしちゃうってこと!?」
「……違います。なんでそうなるんですか」
「ちぇー」

唇を尖らせて椅子の背もたれにもたれ掛かる先輩
この人、体は大きいのに子供みたいだ
でも精神年齢が低いという理由でもないし…

……及川先輩はなにを考えているのかよく分からない

今日はもう止めよう
集中力が切れた状態で描いていてもいい絵は出来上がらないし

絵の具の付いた筆を水洗いバケツの中に突っ込んで片付けを始める

「あれ?もう止めちゃうの??」
「…はい。これ以上やっていても意味が無いので」
「えー」
「及川先輩がじっと隣で見てくるから集中出来ないんです。」
「それって俺だから??」
「?…さぁ、今まで絵を描いている時に真横に来られた事は無かったので分かりません」

私が絵を描いている時は誰も近づいて来なかったし
だから及川先輩みたいな人は珍しいと言えば珍しいけれど

「ドキドキしない?」
「はぁ…特には」
「……ねぇ、彩華ちゃん」
「はい?」
「彩華ちゃんはどうしたらドキドキしてくれるの?」
「……驚かされたらドキドキしますけど」

お化け屋敷とか苦手だし
まぁ人間誰でも驚かされたら動悸はするものだと思うけど

「俺、前も言ったけど彩華ちゃんの事が好きなんだ」
「はぁ、私の絵がって話でしたよね?」
「そうじゃなくて!!女の子として!彩華ちゃんの事が好きなんだってば!!」

ガッと両肩を掴まれそう言われた
及川先輩の目はいつもと違い真剣だった

「ねえ、どうしたら信じてくれる?」
「ど、どう…と言われましても」

そもそも何で私の事を好きなのかもわからないし
及川先輩の勢いに思わず吃ってしまう

そのままどうしたらいいのか分からず黙っていたら唇に柔らかい感触がした
目の前には目を閉じた及川先輩のドアップの顔
睫毛長いな、なんて何処か他人事の様に考えていたらいつの間にか唇は離れていた

「あ、の…」
「俺、謝らないから」

唇の感触がまだ残っていて思わずそこに手を当てた
あれ、キス??
私、まだ誰ともしたことなかったんだけど…
いや、別に、いいけど
じゃああれは私のファーストキス??

理解した瞬間思わず固まってしまい思考停止した
そのあと燃えるように顔が熱くなった

「お、お、お…」
「お??」
「お、及川先輩の、バカ!アホ!!おたんこなす!!!もう知りません!!」

バチン!!!

誰もいない美術室に乾いた音が響いた
私は道具の後片付けもしないまま部屋から飛び出した

信じられない!
あんなデリカシーのない人初めてだ!!

走りながら唇を拭う
柔らかかったなんて絶対に思ってないから!
ドキドキなんかしてないし
これは今走ってるから心拍数が上がってるだけだし
及川先輩にドキドキしてるわけじゃない!!
絶対に違う!!!



▼▼▼▼



「顔、真っ赤だったな」

ポツンと一人残された俺はボソリと呟いた
頬はジンジンと痛み熱を持っている

もしかして、もしかするんじゃないか??
だって普通なら顔を真っ赤にさせたりしないし
っていうかあの暴言ボキャブラリーの少なさ…トビオ並だ

それにしても彩華ちゃんの唇、何か甘かったな
何か塗ってるんだろうか

もう1回したい、なんて言ったら今度こそ口も聞いてくれなくなってしまうのが容易に想像出来たため胸の中に締まっておくことにする


その後部活に行ったら頬に出来た紅葉を皆に馬鹿にされるのはまた別の話だ