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思い切ってキスしたら挨拶に取られた

及川side

他の人が聞いたら腹が立つし嫌味だと思われるかもしれないけど、俺は顔立ちが人よりも良い
それに強豪校の男子バレー部のキャプテンを務めているというオプション付きだ
コレに食らいつかない女子はいないと思っていた
彼女が俺の前に現れるまでは…

俺が彼女を初めて知ったのは半年ほど前に遡る
職員室に用事があっていつもとは違う来賓が来る廊下の前を通っていた
来賓用の下駄箱の真正面に大きな絵画が飾ってあったのだ
何も無い草原に小さな小屋と少女がいる絵画だった
俺は美術の成績はそこまで良くなくて芸術の善し悪しはあまり分からなかった
だけど、その絵を見た時にビビッと電気が走った様に足を止めてしまったのだ
色の使い方、絵の雰囲気全てが描いた人の性格を表しているようだった
繊細でそれでいて優しさを秘めている、そんな感じがした

絵画の額縁の下には学年と名前が書かれてあった

「…近江、彩華」

それが初めて彼女の名前を認識した日だった
心の中で何度も繰り返し彼女の名前を脳みそにインプットさせた

後日美術室へ足を運び初めて彼女を目にした
見た目は本当にどこにでも居そうな女の子
ただ、その目は真剣そのものだった
1つ1つ丁寧に色をつけている姿が酷く印象に残った
きっと彼女の作品にかける思いはとてつもなく強いもなのだという事が初めて見た俺にも分かった
だからあんなにも人を惹きつけて止まないんだ
そんな彼女の事をもっと知りたくなった

気がつけば俺は彼女に声をかけるようになった
彼女は俺の事を全く知らなかったみたいで初めて声を掛けた時は訝しげに眉を寄せていた
その顔が面白くて笑ってしまって更にシワを深くしていたのを今でも覚えている

こうしてことある事に彼女に構っているというのに全く相手にされない
そりゃあ、俺だって少し前までは色んな女の子たちと付き合ってたりしたよ?
でも彩華ちゃんの事を知ってからはパッタリとやめた
だけど彼女は全く俺なんて眼中に無いみたいだった

デートに誘っても毎回断られるし(まぁ、絵を描くためだと言われたら俺も無理強いは出来ないし)
この前なんて告白をしたのに何故か主語をつけた方がいいと言われる始末
(いや、確かに彩華ちゃんの絵は凄く好きなんだけども…)
だけどあの時の笑顔は破壊力抜群だった
きっと写真が取れたならシャッターを押しまくってたと思う

……途中で話が脱線したけど、俺の悩みは要するに
どうしたら彼女に俺の想いが伝わるのかわからない
告白しても冗談だと思われるなんて、前途多難過ぎる

「…っは!」

そうだ!実力行使に移ればいいんだ!
そっか、俺頭いい!!


思いたったが吉日、俺はすぐに彼女の元へと急いだ
きっとこの時間なら彼女はまだ美術室に居るはずだ

急ぎ足で目的地まで歩いていきドアを開けるとそこに彼女はいた
ゆっくりと振り向いて彼女は俺を視界に入れた

「?…どうしたんですか、及川先輩」
「いや、あの…」
「悩み事ですか?」
「え?…悩みはない訳では無いけど」
「…ハッキリしないですね」

ふぅ、と息を吐き絵を描いていた筆をパレットの上に乗せた
どうやら俺の話を聞いてくれるみたいだった
俺は意を決して口を開いた
思っていたよりも緊張しているみたいで、少し口の中が乾燥していた

「彩華ちゃんは俺のことどう思ってる?」
「……及川先輩の事ですか?」
「うん」
「………そうですね」

彩華ちゃんは少し考え込み目をつぶった
何か思いついたのか数10秒後目を開けた

「及川先輩は、何を考えているのかよくわからないです。どうして私の様な人間に構うのか。でもこの前私の絵が好きだと言ってくれたのはとても嬉しかったのも事実。……及川先輩は悪い人では無いと思います」
「……」

…やっぱりこれって異性に思われてないよね、絶対
悪い人と思われてないだけマシだけど
でもこれじゃだめだ
男として意識してもらいたい
その為にここに来たんだから!

「彩華ちゃん!」
「はい?」

俺は彼女の白い頬にキスをした
唇を離して彼女を至近距離で見つめる
キスをされた張本人はポカンと口を開けキスされた頬に手を添えていた

「…どうだった?」
「…どうだったと言われましても。……及川先輩って外国の血でも流れているんですか?」
「は?」
「相手の頬にキスをする習慣は日本には無い筈ですが、及川先輩にはもしかしてこれが挨拶なんですか?」
「違うよ!!!!」

流石の俺もそこまでフレンドリーじゃない
なんでこう彼女はいつも斜め上を行くんだ
俺はどうしたらいいんだ!
キスされても挨拶だと思われるだなんて考えても見なかった
ホントに前途多難すぎる
彼女に悪気がないのがなお悪い

はぁ、と隠すことなく溜息をつくと彼女は小首をかしげて俺を見つめていた