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「なぁ、夜久…」
「ん?なんだよ」

今日の練習が終わり着替えている時、隣で同じ様に着替えをしている夜久に声を掛ける

着替え終えたらしい他の奴らはもう既に帰ってしまい今いるのは俺と夜久の2人だけだ

夜久は着替える手を止めずに顔だけをこっちに向けた

「……女子って何貰ったら嬉しいと思う?」
「はぁ?」

俺の突然の質問に怪訝そうな顔をする夜久
まぁ、そりゃあそうだよな

「お前の方がわかるんじゃねぇの?そういうの」
「いや、ほら…なんて言うか、今までとは違うというか…」
「?…意味わかんねぇ」
「ほら、同じクラスの佐倉井いるだろ?」
「あぁ、佐倉井か…それで?」
「今日職員室の帰りに菓子貰ったんだよ、ほら、今日の帰りに全員に渡したヤツ」
「あれ先生に貰ったんじゃなかったのか」
「まぁな、それで何か貰ったからそのお返し的なのを送ろうと思ったんだけど…佐倉井とあんまり話したこと無いから趣味とか分かんねぇんだよ」

食べることが好きだって事は分かってるけども…
俺の話を聞いた夜久は少し考える様にして口を開いた

「…俺もそこまで佐倉井と話すってわけじゃないからなぁ。あーでも佐倉井クッキーとかそういうの良く食べてるの見かけるけど」
「やっぱり、食いもん?」
「…あいつの場合何貰っても不満とか言わないと思うけど」

それはそうだと思うけれども
できるならなるべく好きな物あげたいだろ

…ん?

そこまで考えてふと、思った
なんで俺はここまで必死に佐倉井が喜びそうな物を選ぼうとしてんだろう、と

今まで彼女がいなかったわけでもないし、その時は当然プレゼントを渡したりもした
けどここまで必死になって相手の事を考えていただろうか

「…うーん」
「お前さ、佐倉井のこと好きなわけ?」

突然夜久が言った

「はぁ?何言ってんだよ」
「だってお前がここまで女子に贈り物すんのに悩んでるの初めて見たし」
「いや、そういうんじゃねぇよ。そもそも佐倉井とまともに話したの今日が初めてだぞ?有り得ねぇよ」

旨いもん食わしてもらったからそれなりの礼はしたいと思っただけだ
それ以外の理由はない…と思う

「まぁ、何にせよ佐倉井は多分何あげても喜ぶって」
「…おう、サンキュー」

帰りに何か甘いものでも買って帰ろう
そう決めて着替えを終えてから部室を出る

いつも一緒に帰る研磨は今日ゲームの発売日だとかでソワソワしながら先に帰っていった

俺としてはナイスタイミングだったからそのまま笑顔で送り出すと気持ち悪い、と言われた
失礼な奴だな

夜久とは降りる駅が違うため電車の中で別れて俺は目的地へと急ぐ
早くしないと営業時間内に間に合わなくなる

目的地は駅前の近くにあるケーキ屋だ
1番近くにあった店に入るとそこはファンシーな内装になっていて客も子連れか女の人ばかりで1人制服(しかも男)の俺はこの空間では異質なものに感じた

視線を感じ居心地の悪さに身を竦めながら1つクッキーの入った袋を手に取り会計を済ます

「1点で480円になります。」

店員にそう告げられ500円玉を出す

「500円お預かり致します。…20円のお返しになります。お確かめください。レシートは…」
「いりません」
「畏まりました。こちらのクッキーは普通の袋でも宜しいでしょうか?それともラッピングを致しますか?料金は掛かりませんが…」

そう言われ俺は少し考えた
やっぱりお返しだし、見栄えは綺麗なほうがいいよな…

「えっと、じゃあ、お願いします」
「畏まりました、それでは少々お待ちください」

そう言って店員はクッキーを素早くラッピングし俺に差し出した

「お待たせいたしました」
「いえ、」
「ありがとうございました。またのご来店お待ちしております」

もう来たくねぇよ、こんな所男1人で…
心の中で悪態をつく

足早に店から出てミッションをクリアした事に達成感を感じた

そして手元にある可愛らしい袋を落とさないように握って歩き出す

よく耐えたぞ、俺!

俺はその日、自画自賛しながら帰路についたのだった
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