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担任に呼び出され渋々部活を途中で抜け出した日のこと
職員室がある棟から体育館へ移動している時、なんとも言えない美味しそうな匂いが何処からか漂ってきた

「何処からだ…?」

キョロキョロと見回すと目に入ったのは自分とは縁のない調理室だった

高校に入ってからは選択授業でしか家庭科は無いし、ましてや部活はバレー部に入っている為料理研究部とやらがあるという事は知っているが自分の関係がないものは人間興味を持てないものだ

俺は何となく調理室へと近づいてみた

外の方から室内を眺めてみるとそこにはクラスメートの佐倉井がいた

同じクラスだが話した事はほとんど無い

女子にしては少しだけふくよかではあるが別に見ていて不快という訳ではなく色白な肌なんかはマシュマロの様で柔らかそうだ、とこの前クラスの男子達が話しているのを聞いた

まじまじと見るのは初めてだったが本人が気付いていない為観察を続ける

佐倉井は特別美人、という訳では無い
何かを作っているその手際は見とれる程で何より楽しそうな表情だ
教室でも笑顔が絶えないみたいだったがそれとは別の顔をしている
…なんて言うか、凄くイキイキとしている

そう言えば佐倉井は弁当が他の女子よりも大きかったな
そんで必ず食後に持ってきたお菓子を友達と分け合っていた

あれ?
よく良く考えてみたら俺佐倉井の事見てる??

首を傾げてたところで中にいた佐倉井がこっちを向いた

「っ!!」

ビクつく俺を他所に佐倉井はパタパタと窓側まで駆けてきて鍵を開けたカラカラと窓を開けた

「黒尾くん?どうかしたの?何か用事かな」
「あーいや、えっと」

いや、何おどおどしてんだ俺
別に何もやましい事はしてねぇだろうが
俺はひとつ深呼吸をした

「ちょっと担任に呼ばれてその帰り…なんかいい匂いがしたんでつい」

俺がそう言うと佐倉井は一瞬目を丸くした後ぱあっと明るくした

「今丁度出来上がった所なの!良かったら少しだけ味見していかない?」
「は?…でも、」
「大丈夫だって、少しだけだしそのくらいなら部員の皆にもバレないよ!」

ほら、入って入ってと促す佐倉井に押され俺は校舎内から調理室へと入った

初めて入った調理室にはいい匂いで充満していた

「いつも、何か作ってんのか?」
「んー?そういう訳じゃないよ。皆でちゃーんと栄養とかバランスとか色々考えて献立立ててそれから調理するの。だから実際は月1くらいかなぁ」

だから今回は黒尾くん、ついてたね
なんて言って笑う佐倉井

カチャカチャと音を立てながら食器を運ぶ佐倉井の姿は家にいる母親の様だった

「そういや、他の部員は?」
「んー?今何かコンビニでデザート買ってくるって言って出ていったの」
「じゃあ、1人でやってたのか?」
「まぁ後は盛り付けだけだしねぇ」
「ふーん」

はいどうぞ。と俺の前に置かれた美味しそうな料理たち

どうやら今日の献立はぶりの照り焼きとほうれん草のお浸し、豆腐とワカメの味噌汁と和食のようだ
彩りも鮮やかでバランスも良さそうだ

「あ、苦手なものとか無かった?」
「あぁ、うん、むしろ好物」
「へぇ…」
「なに?」
「いや、男の子ってなんて言うかガッツリしたのが好きなのかなって思って」
「俺は秋刀魚の塩焼きが好き」
「そうなんだぁ…美味しいよねー!旬の時期しか食べられないのがまたいいんだよねぇ」
「…というより良いのか?部員じゃない俺なんかに分けて」

今更ながら佐倉井に尋ねる
ちなみにまだ手を付けてないから今なら引き返せる


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