その日を境に俺は莉津さんと空いた時間に2人で練習をした
場所は俺達が初めて出会った人通りの少ない廊下だったり
体育館裏だったり
校庭の隅っこだったりと様々だった
莉津さんは1日に一回は必ず練習に付き合ってくれた
それは昼休みだったり、放課後だったり色々だった
そして今日は体育館裏で練習をしていた
「…莉津さん、バレー上手ですよね」
「……そう?」
「はい、俺よりも全然、昔やってたんですか?」
レシーブを2人でやっていた時にずっと気になっていた事を聞いてみた
莉津さんは俺の言葉を聞いて若干動きが鈍くなってボールを違う方向へ飛ばしてしまった
「あ、ごめん」
「いえ!全然!」
何となく莉津さんの話の続きがある様な気がして俺はボールを取りに行った後莉津さんが話してくれるのを待った
莉津さんは1つ溜め息をこぼして体育館の裏口の前の階段に座った
俺もそれに続いて隣に座った
「…まぁ、楽しい話じゃないけど」
「聞きたいです」
「そう……しょうがさっき聞いてきたけど、アタシ小学校の頃からバレーやってた」
「…今はやってないんですか?」
俺の問いかけに莉津さんは綺麗に整った眉毛を下げて笑った
そしてスカートを少し捲って膝を見せた
今まで膝下で隠れていたから見えなかったけどそこには小さな縫い跡が残っていた
それを見て俺はゴクリと息を飲んだ
「なんて言うか、アタシ結構バレー上手かったんだ。それを周りの人たちが良く思ってなくてさ、まぁ…ちょっとゴタゴタして足怪我しちゃったのよ。今はだいぶ良くなったんだけどやっぱり激しい運動は負担が掛かるから出来ないって言われた。」
「それっていつ…」
「…いつだったかな、確か中2の初めくらいだった筈。もう吹っ切れたけど」
そう話す莉津さんの表情はとてもじゃないけど吹っ切れた様には見えなかった
「…しょうと練習出来るのももうそんなに長くないね」
「……はい」
そうだ、莉津さんは3年で俺は1年
もう、そんなに長く一緒に練習出来ない
「アタシが後2年産まれるのが遅くて、男だったら良かったね」
「え?」
「だってさ、そしたらしょうと一緒に長くバレー出来るし足もこんなになってなかったかも
アタシは3年だから、せめて2年だったらもっと練習に付き合ってあげられたのに」
「そんなことない!!!」
「っ、」
俺の大声に莉津さんは目を丸くしてこっちを見た
「莉津さんがこうして練習に付き合ってくれて俺、すごく嬉しい!アドバイスもしてくれるし!…確かに莉津さんともっと長く練習できたら良いなとは思うけど!でも、今こうしていれる時間は絶対無駄じゃない!」
「………」
「っは!…いや、あの…す、すみません、俺、生意気言って!」
「ううん、いい…気にしないで。そうだね、しょうの言った通り今こうしている時間も無駄じゃないよね」
「は、はい」
「そうだよね、しょう、ありがとう」
「い、いえ!別にそんな、俺は何にも!」
「はは、焦りすぎ」
莉津さんは声を上げて笑った
うん、やっぱり莉津さんは笑ってる方がずっと良い
つられて俺も笑うと突然莉津さんは俺の頭をポンポンと撫でた
「…でも、しょうの本当の仲間になれないのは、残念」
そう言って莉津さんは小さく呟いた
『本当の仲間』
頭の中で何度も何度も繰り返された
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