莉津さんの家までもう50mを切ってしまっている
「今日は夕くんと一緒に帰れたからあっという間だったなぁ」
「…はい、俺もそう思います」
「そっかぁ、夕くんも一緒か」
再びゆっくりと歩き出した莉津さんの後ろをついて行く
「夕くんは今高校2年生だっけ?」
「はい」
「早いねぇ…ついこの間までランドセル背負ってた筈なのに、働き出すと1年があっという間だし老けるのも早く感じるなぁ」
「…莉津さんは昔からずっと綺麗なままです」
「ほんと?…嬉しいなぁ」
やっぱり莉津さんにとって俺は弟的な存在なのかと思うとズキリと胸が痛んだ
「夕くんは昔から男前だから、そんな男の子に言われると照れるね」
真っ白な頬を少し赤く染める莉津さんは凄く可愛い
「莉津さんは凄く綺麗で可愛いっす」
「もー、おだてても何も無いからね?」
「勿論、おだててないんで!」
俺がそう言うと莉津さんは目を丸くした
「夕くん!大人をからかうんじゃありません!悪い女に引っ掛かるよ」
「…?莉津さんは悪い女の人じゃないんで大丈夫です!」
「…そうじゃないんだけど、まぁいっか」
苦笑いを浮かべる莉津さんに首を傾げる
本当のことなのに…
50mなんてすぐで莉津さんの家の前まで着いてしまった
莉津さんは門に手を掛け俺の方を振り返った
「じゃあ…夕くん、またね」
「はい」
「あ、マフラーはいつでもいいからね!」
「はい!ありがとうございました!それじゃあ、俺帰ります」
「うん、ばいばい」
莉津さんに挨拶をしてから走る
少し進んだところで振り返ると莉津さんはまだ家の前で立って手を振っていた
俺はその姿を見て堪らず口を開いた
「あの!莉津さん!!」
「?なぁに!」
距離が少し離れている為声が自然と大きくなる
「俺、莉津さんのことが好きです!もっともっとでっかい男になったら!俺のこと男として見てくれますか!!」
「えっ!?」
俺の言葉にキョロキョロと辺りを見回して焦り始める莉津さん
「弟みたいじゃなくて、1人の男としてです!」
「ちょ、ちょっと夕くん!?」
今度は莉津さんが俺の方まで走って来た
「しー!静かに!声が大きいよ!」
「距離があったんで!」
「いや、それはそうなんだけど…そうじゃなくてね?!」
「で、どうなんですか!」
「ど、どうって…言われても」
「だめですか?」
やっぱり年下は嫌だったのだろうか
だとしたら俺の初恋はここで終了だ
「夕くんのこと、そういう風に見たことなかったから今、凄い驚いてる」
「はい」
「でもね、凄く嬉しいって気持ちもあるの」
「嬉しい?」
「うん、あんな風に大声で告白なんてされたこと無かったもん、女の子の夢?みたいな感じ」
「そうなんすか?」
「まぁ、私はね…それで、あの」
「や!ちょっと待って下さい!やっぱり、試合で俺の勇姿を見てから返事をくれませんか?!あ、でも身長はそんなに早く伸びないか!」
今のままだと断られそうだ
何となくだけど!
「…身長はそこまできにしなくても…うん、わかったじゃあ、夕くんのバレーやってるところ見てから返事する」
「はい!」
「だから、早く問題解決するように頑張ってね!」
莉津さんはそう言って俺の手を両手で握り締めた
外気に触れてお互いの手はとても冷えていたけど何処か暖かく感じた
「夕くんの手、私よりも大きいね」
「…そう、ですか?」
「うん、手が大きい人は身長も大きくなるよ。それに私は外見で判断しないから、あんまり気にしちゃダメだよ」
「ぅ、うっす!」
「よし!パワー注入しといたから、これからも大きな怪我をしない程度に頑張って」
「…は、はい!」
「じゃあ、今度こそばいばい」
最後に頭をポンポンと撫でてから莉津さんは家へと帰っていった
「…莉津さんの手、ちっさかったな」
さっきまで握られていた自分の手を開いたり閉じたりしながら思い出す
身長気にしないって言ってたし
…もしかして、もしかするのか?
「うおっしゃあぁ!!」
俺は莉津さんから貸してもらったマフラーを靡かせながら走って自分の家まで帰った
俺の初恋はもしかしたら、実るかもしれない
→後書き+おまけ
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