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「なぁ、月島ー」
「…なんですか」

相変わらず昼休憩の時は先輩達と食べていて、僕の弁当を見てはおかずを交換しろと無理やりカツやら唐揚げやら揚げ物を弁当の中に入れられる

今日の犠牲は玉子焼きで代わりに来たのはクリームコロッケだった

「お前さー日頃の感謝を愛乃ちゃんに伝えてんのか?」
「はい?」
「まぁ、月島はそういうのしなさそうですけどねー」

高田さんの問に答えたのは何故か俺の隣にいる多田さんだった
まぁ、多田さんの言う通りなのだが

「そういう皆さんは日頃の感謝を伝えてるんですか」
「うーん、俺はまぁ時々は言ってるかなぁ。家のことしてくれてるしね」
「高田さんは?」
「俺は特にしてねぇけど…だってもうなんて言うかさー嫁って言うよりも母ちゃんなんだよなぁ。あれしなさい、これしなさいってよー。子育て任せっきりなのは申し訳ないけど…娘も冷たいし」

そうか、高田さんのところは娘さんがいるのか
お茶を飲みながらふと思い出した

「あー、うちの嫁もそんなんですわ…最近ホント辺りがキツくってとくにうちの嫁、姉さん女房なんで…」
「…大変なんですね」

なんと言っていいのか分からず、無難な返事を返す
子どもがいない自分にはどうコメントしたらいいのかなんて全くわからないし

「お前もいずれ歩む道さ」
「はぁ…」
「まぁ、だからといって嫁さんの事は何だかんだ言って可愛いとは思ってるよ??最近あたりきついのは仕方ないだろうし」
「俺もそうだけどよー、もう少し素直になって欲しいぜ…正直よー。ベッドでは超素直なのに…」
「下品な発言やめて下さい」

小声でとんでもない事を言った高田さんにバッサリと突っ込む
だからオッサンって呼ばれるんだこの人は

「オレの嫁見る?」
「いや、いいです」

さっきの発言聞いた後だと余計見たくない
ふいと顔を横にそらすと多田さんがスマホをいじった後自分の方に向けてきた

「これオレの嫁。結構可愛いだろ」
「…はぁ、まぁ」
「なんだよーそのリアクションはー。俺より歳上には見えねぇだろ?」
「幾つ上なんですか?」
「んー、確か4つだったかな」
「多田さんって確か36でしたよね…確かに歳上には見えませんね」

休日にどこかに出掛けた際に撮った写真だろうか
真ん中で楽しそうに笑っている太めのまゆが特徴の女性と後ろから抱きつかれて嬉しそうに笑っている小さな男の子
子どもとじゃれ合っている写真は幸せそうだった

「俺の一目惚れ」
「その情報は別に要らないです」

なんだよーとブツブツ言いながら今度は高田さんにスマホを向けていた
高田さんと多田さんが何やら下衆な話をしているのを聞き流し弁当を食べ進める

そうか、今日は何か買って帰ろうか
仕事が終わってからだと店もそんなに開いてないだろうけどショッピングモールは22時頃まで開いていたはずだ
愛乃には少し帰りが遅くなる事をメールしておこう

△▼△▼△▼

仕事が終わり駅の近くにあるショッピングモールに急ぐ
とはいえ一体何をプレゼントすればいいのやら
愛乃は基本的に何かを欲しいとは言わないし、何をあげても喜ぶタイプの人間だ

帰りがあまり遅くなるわけにはいかないからなるべく早く済ませたい
店内に入ると時間帯のせいでもあるのか人はまばらだった

何がいいのか全く分からない
店内を見て回るがピンとくるものが無い
あげたら何でも喜ぶ人に何を贈ればいいのか…
ケーキは結構な頻度で買ってるから代わり映えしないしな

「……」

ふと店内を歩いていて目に入ったのは雑貨屋
入口付近に飾ってある髪留めが何となく目に付いた
淡い水色のリボンの中心に群青色の花が付いているバレッタ
昔とは違い髪の毛を伸ばすようになった愛乃に似合う気がした

店員に贈り物用に包んでもらい家路につく
店員から生暖かい見守るような視線を向けられたのを思い出し何となく居心地が悪くなり早足になる

〜♪

ポケットに入れていたスマホから受信音が鳴る
メッセージを確認すると愛乃からだった

[蛍ちゃん!今日は頑張ってグラタンを作ってみました!もうすぐ帰ってこれそうかな?気をつけて帰ってきてね^^*]

グラタンって今まで作ったこと無かった気がするな
もうすぐ家に着くことを伝えてスマホをポケットに戻す

いつもより早足だったお陰かすぐに家の前まで着いてしまったが、決して楽しみだった訳では無い
玄関の鍵を開け中へ入るとチーズの香ばしい匂いが鼻腔を擽った

「蛍ちゃん!おかえりなさい!」
「…ただいま」
「蛍ちゃんの分今焼けたところなの!温かいうちに食べよう」
「ん、これ」
「?なぁに?」

いつものように鞄を受け取った愛乃にバレッタが入った小さな紙袋を手渡す
それを不思議そうな顔をして鞄を持ってない方の手で受け取ったので、開けるように視線で促す

「たまたま、店の前にあったから…最近髪伸びてきてたし、付けれそうだと思って。要らなかったら別にいいけど」
「わぁ!綺麗なバレッタ!嬉しいっ…ありがとう!」
「いや…」
「でも今日ってなんかの日だっけ?ホントに貰っていいの?」
「別に何も無いよ、何となく気が向いただけ」

愛乃と視線を合わせることなく淡々と話す
このなんとも言えない雰囲気が落ち着かない

「そっかぁ…そしたら今度このバレッタを付けてお出かけしたいなぁ」

嬉しそうにバレッタを眺める愛乃
小さな手からバレッタを奪いそれを頭に付けてやる

想像していた通りよく似合っている

「…似合う?」
「悪くは無いんじゃない」
「ふふ、ありがとう」

今度の休日は愛乃の行きたいところに連れていくのもいいか
たまには、そういうのも悪くない



(なんか愛乃の焦げてない?)
(い、いいの!私はこれくらい香ばしいのが食べたい気分だったの)
(ふーん、ねぇ、鼻の頭に小麦粉ついてるのわざと?)
(えっ!?それ早く言ってよ!)
(嘘だよ)
(蛍ちゃん!)
.☆.。.:.+*:゚+。 .゚・*..☆.。.:*・°.*・゚ .゚・*..☆.。.:*・°.*・゚ .゚・*..☆.

素直にありがとうと言えない月島くんの想いをちゃんと理解出来ている愛乃ちゃんです
何となくそれに気付いている月島くんのささやかな反撃…