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「#幼馴染」のBL小説を読む
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「蛍ちゃんごめんね、今日は用事があってお家空けるんだけど留守番お願いできないかな??」

休日のいつもより少し遅い朝のこと
愛乃は僕にコーヒーを差し出しながらそう言った

「…別にいいけど」

特に用事もなく家で過ごそうと考えていた僕は二つ返事で引き受けた
コーヒーを受け取り口を付ける
僕好みの丁度良い甘さのコーヒーだった


それから愛乃は慌ただしく準備を始めてそのまま出て行った
見送りなんてしないけどいつもは愛乃が家で僕の帰りを待っているのに今日はそれが逆になるなんて、何だか変な感じがした

特に何も無い日にこうしてソファに座りダラダラと過ごすのも悪くない
そう思っていたけど2人暮らしには少し広めの2LDKが今は酷く閑散としている
愛乃は、いつも1人でこの広い部屋に居るのだろうか
前に不満とか無いのかって聞いたことがあったけど愛乃は直ぐに不満なんてない、と言っていた
こんな生活を送っていて不満なんて無いなんて…本当だろうか

僕だったら絶対嫌だ、こんな過ごし方をするなんて
それなのに愛乃はいつも今日は○○があって楽しかったや○○が今日はスーパーで安かっただの夕飯の時に今日あったことを必ず話題に出す
どうでもいい様な事を本当に楽しそうに話すんだ

ちょっと嬉しかったことやびっくりした事を話す愛乃の表情を見ているととてもじゃないが嘘とは思えない
……多分感受性が強いんだと思う
その日あったことに対して小さな事でも喜びを感じる事が出来るのは愛乃の長所の一つなんだろう

自分に無いものに惹かれると言うのは本当の事なんだな、なんて思った
まぁ愛乃には絶対言ってやらないけど

ボーッとしていたらいつの間にか時計は12:00を示していた
そう言えば愛乃は何時頃帰って来るって言ってたっけ
慌てて出て行ってたから言うの忘れてたな、確か

朝の様子を思い出して少しだけ笑みがこぼれた
髪の毛に寝癖が付いていたことに気が付いてたんだろうか
帰ってきてまだ癖がついてたらからかってやろう

キッチンへ向うと冷蔵庫にメモが貼ってあった
『蛍ちゃんへ
冷蔵庫にお昼ご飯作っておいたからレンジでチンして食べてね!
愛乃より』

メモのとおり冷蔵庫を開けてみるとそこにはラップに包まれたおかずが置いてあった

「…今日は野菜炒めか」

ポツリと呟いて
冷蔵庫から皿を取り出しレンジで温める
数分後温め終了の音が鳴った

誰もいないリビングで1人昼食を摂る
味はいつもと同じなはずなのにどこか味気なく感じた

午後は何をしようか…
CDショップにでも行こうと考え食べ終えた食器を片付ける

支度をして家から出ると程よい風が吹いていた

……仕事以外で1人で出掛けるのってホントに久しぶりだ
いつもは愛乃が隣にいたし
…いや、別に淋しいとかそんなんじゃないけど
ただ単に隣にいない事が違和感があるってだけで

「…はぁ」

何考えてんだか
ただ騒がしいのが隣にいなくて落ち着かないってだけだ、うん
偶には歩いて電車に乗って出かけようと最寄りの駅へ向かった

最寄りの駅から二つ先の駅で降りて目的地へゆっくりと歩く
平日という事もあって人はあまり多くなく、人ごみに酔う心配は無い
店内に無事に着いたが、やはり人は疎らだった
新発売のコーナに向かうが目欲しいものも無く店の中を歩き何かないかを探す

そこで目に入ったのが以前愛乃が話していたタイトルのCD
愛乃はオルゴールが好きで何枚か既に部屋にあったはずだ
何気なくそのCDを手に取りジャケットの裏を見る

…仕方ない、買って帰るか

何も買わずに店から出るのは気が引けるし、ただそれだけで他意は無い、決して

店員の声を背に店から出て来た道の通りに帰る
同じ様に電車に乗りドアの近くの吊革に掴まる
ぼーっと外の景色を窓から眺めているとクイッと後から服を引っ張られた

誰だと思わず顔を顰め振り返るとそこにいたのは朝慌ただしく出ていった愛乃だった

「……愛乃」
「やっぱり蛍ちゃんだった!」

ふにゃりと間抜けな笑顔を浮かべる愛乃

「仕事は?」
「終わったよー」
「そう」
「電車に乗ってたら見慣れた後姿が見えたからもしかしたらって思って!凄い偶然だね」
「たまたまでしょ」
「もー…あれ、新しいCD買ったの?」

愛乃は僕が持っていたCDショップの袋を見てそう言った
僕はそのまま持っていた袋を愛乃に押し付けた

「あ!これ、私が欲しかったCD!」
「…何も買わずに帰るのは気が引けたから買っただけだよ」
「それでも、蛍ちゃんが私がこのCD欲しいって言ってたのを覚えてくれてただけでも嬉しい。ありがとう!」
「……電車の中なんだから静かにしてなよ」
「ふふ、はーい」

何でもお見通しだと言わんばかりににやにやとしている愛乃にしてやられた感が否めないけど、やっぱり隣にいるのは騒がしいくらいが丁度いいのかもしれない

にやにやしていたお返しに朝の寝癖がまだ付いていることを指摘すれば、愛乃は顔を真っ赤にして怒るんだろうなと少し先の事を想像して少しだけ口元が緩んだ