今日は蛍ちゃんが帰ってくるのが早いみたい お昼時に1通のメールが入った [今日はいつもより帰るの早いから] 絵文字も入っていない素っ気ない短文 だけど私はそれを見ただけで嬉しくなった よーし!今日の夕飯は私の得意料理にしよう! 私の得意料理はオムライス! オムライスは私が蛍ちゃんに初めて手料理で出したもの 当時の出来は亀裂が入ってしまったオムライスの命ともいえる玉子 見栄えは最悪だった 味は悪くなかった筈だけど、やっぱり料理は見た目が良くてこそだと思うんだ だからあれから私は玉子が上手く包める様に練習をたくさんした その練習に付き合ってくれたお兄ちゃんには本当に感謝してる ありがとう、お兄ちゃん 何度も何度も練習しているうちにいつの間にか得意料理になってしまったオムライス 今では辛口蛍ちゃんの評判も上々だ ふわふわの玉子にするコツはたっぷりとバターを引いて生クリームを少し混ぜるとふわふわのトロトロになる お母さんから教えて貰った方法はとっても為になっていて今でもたまに苦手なものを作る時はコツを教えてもらう …蛍ちゃんには内緒だけどね フライパンでケチャップライスを作って別のフライパンにバターを引いて溶いた卵を熱したフライパンに注ぐ バターの香りが食欲をそそる 半熟になった玉子の中にケチャップライスを入れ包んでいく トントンとフライパンを持っている方の手を叩き振動を与えて包んでいく このやり方を習得するまでに結構時間が掛かった 「よーし!完璧!」 綺麗に出来たオムライスを大きめ皿に乗せる 色合いにパセリを盛り付け最後にケチャップを掛けて出来上がり 昔どこかで読んだ漫画で新婚さんはハートの絵を描くと旦那さんが喜ぶ、みたいなのがあったけど蛍ちゃんの場合は絶対嫌がりそう その姿は容易に想像できて思わず笑ってしまった きっとハートの絵を描いていても食べてくれるんだろうけど 蛍ちゃんはなんだかんだ言って優しいからなぁ… 時計を確認してみると丁度いい時間帯 最近は蛍ちゃんが帰ってくるのがどの位なのか逆算して何となくタイミングが分かってきたから料理も出来立てで食べさせてあげられるのが嬉しい 付け合せにサラダとスープを作ってお皿を傍に出しておく 「あともう少しかな…?」 キッチンから出てエプロンを脱いでハンガーに掛ける お出迎えの準備だ パタパタと洗面所の鏡を覗き込んでおかしいところが無いか身だしなみチェックをする この前お出迎えした時に顔に小麦粉が付いていたのを笑われた(因みにその時の夕飯は唐揚げだった) それからはちゃんと確認してからお出迎えに行くことにした インターホンが鳴り私は慌てて玄関へと向かう 「蛍ちゃん、お帰りなさい!」 玄関の鍵を開けてドアを開ける 「ただいま」 「お疲れ様、ご飯出来てるよ!」 「今日は何?」 「今日はねーオムライス!」 私は持っていた鞄を受け取り答えると蛍ちゃんはふぅん、と言って私の前をスタスタと歩いて部屋へと着替えに行った 数分してから蛍ちゃんは着替えてリビングにやって来た 「失敗しなかったワケ?」 「大丈夫です!今は私の得意料理なんだから!」 「そうだったっけ?」 「もー…毎回オムライスの度に聞くのやめてよ。私が毎回失敗してるみたいじゃない」 新しい料理に挑戦した時は失敗する事もたまーにあるけど作り慣れた物は滅多に無いのに… 蛍ちゃんはオムライスの時はこうやって必ず聞いてくるのだ 「毎回はして無いけど偶にするでしょ」 「……そこは否定できないけど」 コトリとスープとサラダをテーブルに並べる キッチンへ戻り今日のメインを持ってくる 「はい、どうぞ」 蛍ちゃんの前にオムライスを置いて自分の分を並べる椅子に座る 「ね?失敗してないでしょ?」 「今回はね」 「次も大丈夫だってばー!」 むっとする私を見て蛍ちゃんは楽しそうに笑う でも、本当はこうしてオムライスを作る度にからかわれるのは嫌いじゃない 確かにむっとしてしまうけど、でも蛍ちゃんがそうやってからかうのは私が初めて出した手料理をちゃんと覚えていてくれてるって事でもあるから だから嬉しいのと複雑な思いが混ざって何とも言えない気分になってしまう。 「愛乃」 「…ん?なぁに??」 「今度の休みの日は何も予定入れとかないでよ」 「いい、けど…何かあったっけ?」 蛍ちゃんの今度のお休みは確かに来週の土曜日だったはず… 久しぶりに平日以外の日に休みになったって話ししたから 「会社の先輩が美味しいって言うお店教えてくれたから」 「うわぁ…!本当?」 蛍ちゃんと久しぶりのお出かけ!! ……嬉しい! 「その後何処か行きたいとこあったら連れて行くから」 「いいの?!今からすっごい楽しみ!!」 「大袈裟すぎ」 「だって蛍ちゃんと久しぶりにお出かけ出来るんだよ?」 「……偶には息抜きしないと息が詰まるだろうし」 「…え?」 ……それは、いつも家の事をしている私の為にってこと? どうしよう、嬉しくて顔がにやける 「ふふふっ」 「……顔がだらしない」 「ふふ、今はいいの!すっごく幸せだから!!」 蛍ちゃんが私の為に計画を建ててくれたって事が何よりも嬉しい 「単純」 「なんとでも!今は何を言われても気にならないもん!」 「あっそ」 「あ、でもね蛍ちゃん…私、家事をやってて息が詰まる事なんてないよ」 「…?」 「だって毎日蛍ちゃんの事を想って料理したり洗濯物を干したり掃除したりしてるから全然苦痛じゃないの。でもこうしてお出かけ出来るのは久しぶりだから嬉しい!」 私の言葉に一瞬気の抜けた顔をした蛍ちゃんだったけど直ぐにいつも通りに戻って横を向いてしまった 横から覗く耳が赤く染まっているのを見て私はまた頬が緩んでしまった。 ****** あとがき …なんか料理の話ばっかりになってしまうのは何故だろう汗 次の話はまた別なので続きません。 これの続きは多分次の次になると思います。 |