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迷子の迷子の女の子

潔子side

土曜日の練習日、部活に必要な物品の買出しの帰りの事だった
スポーツ用品店から買い物を終えた今、私の目の前には小さな女の子がいる

その女の子の手には見覚えのある弁当袋が抱えられている
私にとってはなんて事無い大きさの弁当箱が酷く大きく見えた

「るーちゃ?」
「え?」

るーちゃ?
誰かの名前だろうか…
聞き返すとその女の子は首をふるふると振ってお名前は?と聞いてきた

「私の名前は清水潔子」
「きょーちゃ、ひなはね、ひなってゆーの!」
「そっか、ひなちゃんって言うんだね」
「うん!」
「ひなちゃん、お母さんは何処にいるのか分かるかな?」

そう、この子は今たった1人なのだ
一応スポーツ用品店の前だが、こんなに小さい子供が1人でいるとは考えにくい
隣のスーパーに買い物にでも行ってるのだろうか…

「あーしゃんはね、えーとね、えっとね…にーにのところにいくまえにあそこでかいものしてるの!」
「買い物…ひなちゃんはお母さんの所に行かなくてもいいの?」
「あーしゃんはね、おばちゃんとおはなししてるの、だからひながひとりでにーにのところにいこうとしたの!でね、きょーちゃがいたの!」

…えーっと
要約すると買い物の途中で知り合いにあったこの子の母親は話に夢中になってしまって飽きたこの子は1人でお兄ちゃんの所に行こうと店から出たところ私と出会ってしまった、という事か

「お母さんには言ったの?」
「ううん!ゆってない!」
「ひなちゃんがいなくなったらお母さん心配しちゃうよ」
「うーん…でも」
「お母さんの所に戻ろう?ついて行ってあげるから」
「でもね、にーにがお腹グーってなってるの」
「お兄ちゃんは今日どこかに行ってるの?」
「えっとね、ぶかつだって!ばれーやってるよ!」
「そうなんだ、バレーやってるんだ」

そこでふと、目に付いた弁当袋
見覚えがあるけど、喉元で引っ掛かったまま思い出せない

「にーにはねーえっとね、とってもばれーがじょうずなの!」
「そうのなんだ、私も部活でバレーやってるよ」
「ほぇー!きょーちゃ、にーにとおんなじまっくろのふくきてる!いっしょだね」

ん…??
黒ってこのジャージの事だよね
この子のお兄ちゃん、まさか烏野?

「ひなちゃん、お兄ちゃんのお名前分かる?」
「にーにのおなまえ?こーしってゆーの!」

……この子菅原の妹?
いや、え…っと妹いるなんて今まで聞いたこと無かったんだけど

でも、この弁当袋は菅原が使っている物と同じだ
通りで見覚えがあるはずだ

取り敢えず、この子のお母さんの所へ行こう

「ひなちゃん、お母さんの所に行こう?」
「えー…」
「お母さんに言ってから、私と一緒に行こう、お兄ちゃんのところに」
「きょーちゃと!?」
「うん、ひなちゃんのお兄ちゃん私の知ってる人だと思う」
「ほぇー!」

…この子、可愛いな
キラキラと瞳が輝いていて眩しい

ひなちゃんの案内の元母親の所までたどり着いた

「あの…」

未だに談笑中の2人組に声を掛けると菅原によく似た女の人がこちらを向いた
そして目線をしたに下げ目を丸くした

「ひなちゃん!どうしたの?!」
「1人でお兄ちゃんの所に行こうとしていたみたいで…」

ひなちゃんがいなくなっていた事に今気付いた様で慌てていた

「あーしゃんがおはなししてるから、にーにおなかグーってなってるの、だからね、ひながおひるとどけよーって」
「1人だと危ないでしょう?ごめんなさいね、お話しちゃって…ひなちゃんはにーにが大好きだものね」
「うん!」

目線を合わせ頭をポンポンと数回撫でる
ひなちゃんは嬉しそうに目を細めていた

「あの、その事なんですけど…もしよろしかったら私が連れていきましょうか?お兄さん、烏野高校ですよね?」
「え?ええ…」
「あ、勿論無理にとは言わないですけど」
「そう言えば孝支と同じジャージ…バレー部のマネージャーさんかしら」
「はい、丁度買出しが終わったところでひなちゃんと会って…」
「そうだったの…ごめんなさいね、迷惑を掛けちゃったみたいで」
「いいえ、気にしないでください」
「ねー!きょーちゃといっしょににーにのところいってもいーい?」
「…お姉ちゃんに迷惑かかるでしょう?」
「あ、いえ、それは全然!私もこれから学校に戻るところですから」
「うーん、でもねぇ」
「あーしゃん!ひないいこにしてる、ぷりんもがまんしゅるから!」

ひなちゃんが必死にお願いする姿を見て折れたようで

「じゃあ、お願いしてもいいかしら?」
「はい」
「でも、心配だから車で高校の前まで送るわ」
「え?でも…」
「いいのよ、元からそのつもりだったし…その代わりに体育館までお弁当を孝支に届けてくれないかしら?」
「は、はい!」

そんなもの、お安い御用だ
菅原のお母さんは2.3言相手のおばさんと話をしてこちらへやって来た

「じゃあ、いきましょうか」
「きょーちゃ、いこいこ!」
「…うん」

私は差し出された小さな手をぎゅっと握った
その手はとても柔らかくて、暖かかった


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