君と私の物語 | ナノ
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いつものように図書室のカウンターで当番をしながら彼が来るのを待つ
図書室にやって来る人は限られていて今だってここに居るのは私を含めた2,3人程しかいない
静かな空間の中でゆっくりと時間が進む
チラリと時計に目を向けるとそろそろ菅原君がやって来る頃だ
彼は受験勉強の息抜きに偶に部活に顔をだし、その帰りに図書室に寄ってくることもあれば勉強をするためにわざわざこの図書室へ来るときもある
外はまだまだ蝉の声が響いていて夏の暑さを物語っている
きっと暑いんだろうな…
私は朝早めに出てきたからあまり暑くなかったけど今のこの光景を見ると帰るのが憂鬱になる
帰るだけで汗だくになるのは避けられないだろう

一つ小さくため息をついたとき図書室のドアが開いた

そちらに目を向けると彼___菅原君がいた
ここまで走ってきたのか彼の頬は上気していて赤くなっていた
カウンターの方へやって来た彼にまだ使っていないタオルを差し出すときょとんとして私を見返した

「部活、お疲れ。このタオル使ってないから良かったら」
「い、いや!悪いからいいよ!!」
「でも部活で使ったタオルはもう濡れてるんじゃないの?」
「ま、まぁ…そうなんたけど!」
「だから、はい。私は小さいのもう一つあるから気にしないで」

私がそう言うと彼はおずおずとタオルを受け取り汗を拭いた

「……なんか、良い匂いがする」
「…え??」
「うわ、いや、別に変な意味とかじゃなくて、この匂い好きだなって思って…!」

別に引いている訳じゃないのに慌てて弁解する姿になんだか笑えてきてしまう
菅原君には申し訳ないんだけど

「ふふ、別に気にしなくていいよ。私もこの匂い好きでね?お母さんにわざわざ頼んで買ってきてもらってる柔軟剤なの」
「そ、そうなんだ」
「匂いって人それぞれ好みが違うから、良かった。なかには臭いって思う人もいるでしょ?」
「いや、そんなこと思う訳ないって!」
「そっか、まぁそもそも菅原君優しいからそんなこと言わないだろうけど」
「…別に俺は優しくなんかないよ」
「優しい人はそれに気がつかないものなんだよ」
「そういうものかな?」
「そういうものなんです。」

そういって私達はお互いにくすくすと笑い合った
こういうやり取りが出来るのって凄く幸せだ
少し前までならテンパっちゃってこうはいかなかったけど、今はこうして笑い合う事が出来る

お友達として、上手くやっていけてると思う

夏休みに珍しく来た(いつもいることはいるけど顔を出さない)司書さんが気を効かせてくれてカウンターは今日は良いと言ってくれたので私と菅原君は図書室のテーブルで勉強することになった

カリカリとシャーペンが動く音が止まり、ふと隣を見ると菅原君が口を開いた

「そう言えばさ、松元さんって旭の事知ってる?」
「旭?」
「東峰旭、俺と一緒で元バレー部の」
「あぁ、東峰君…うん、知ってるよ」
「そっか」
「それがどうかしたの?」

確か彼は本を延滞していたんだ
ちょくちょく本を借りに来る人だったからそんな人が期限を忘れるなんて珍しくてなんとなく覚えていた

「や、今日さ旭のやつが松元さんのこと知ってるって言ってたからさ」
「え、」

私の居ないところで私の話が…??
かなり意外なんですけど

「別に変な話じゃなくて!旭が自分を見ても怖がらないから覚えてたって言ってたの聞いて松元さんらしいなって!」
「…私らしい」
「なんか、人を見た目で判断しないところとか松元さんぽいなって」
「…そうかな?」
「うん、俺はそう思う。だって俺と初対面の時も結構挙動不審だったと思うのに普通に話し掛けてくれたし…」

恥ずかしそうに頬を掻く菅原君
そんな彼の顔を見てこっちも少し照れてしまう

「まぁ、私も少し見た目で判断しちゃうとことかあるんだけど…何より」

ふと言葉を止めた私を不思議に思ったのか彼がこっちに顔を向けた
その様子を見てふ、と笑みを溢す

「本を好きな人に悪い人はいないって思ってるから」
「っ、!」
「まぁ、これは私の持論でもあるし、そう願ってるんだ」

だってここにやって来る人達は何かしらの物語を求めてやって来るんだもん
自分の生き方、自分の夢
色んな思いがあるから図書室に来るんだ
そうじゃなくちゃ校舎から少し離れたこの図書室にわざわざやって来ない

やって来る人達にその人が望んだ本を選んであげられたら、私はもっと幸せなんだ

「な、なーんて思ってたりして」

真面目に語っていた事に気がついて居心地が悪くなり菅原君から視線を外した

「うん、凄くいい考え方だと思うな」
「…え?」
「松元さん、やっぱり司書に向いてる」
「そ、そうかな」

真面目な顔で菅原君が言うから、さっきまで感じていた居心地の悪さがいつの間にか無くなっていた




***
あとがき
私の勝手なイメージだけど、旭さんは意外と本を読んでそう…
相手に怖がられないように接する方法とか小動物の写真載ってる本とか…(笑)
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