君と私の物語 | ナノ
静かな空間
誰もいない室内
ゆっくりと流れていく時間
そして何より私が大好きな本のにおい
いつも一人しかいなかったこの空間に変化が訪れた
ドアが開く音がして、その方向に顔を向けると、そこにはついこの間友達になったばかりの菅原君が立っていた
暑さのせいか、額には汗が浮かんでいて頬もほんのり赤くなっていた
私と目が合うと彼はニッと歯を出して笑った
……菅原君の笑顔、好きだなぁ
「松元さん、今日は何の本読んでたの?」
カウンターにいる私の方へと歩いて来て私が読んでいた本を覗き込んだ
グっと距離が近づいて思わず俯いてしまう
彼は私のことを友達と思っているのかもしれないけど私にとっては菅原君は意中の人なわけで…
そんな人がこんなに近くにいたら平然としてなんていられないよ…
赤くなっている事に気付かれないように頬を少し手で隠しながら答える
「えっと…前に私が好きな作家さんの話したの覚えてる?」
「!…あ、俺が読書感想文の時に何の本がいいか聞いた時の??」
「う、うん!…その人の新作がこの前発売されてて、つい買っちゃったんだ」
菅原君、覚えててくれたんだ…嬉しい
「へぇ…どんな内容なの?」
「あのね、この作家さん、いつもファンタジーとかミステリーを書く事が多いんだけど、今回初めて恋愛ものに挑戦したみたいなの!
まだ読み終わってないから感想とかはあまり言えないけど、人の感情とかが凄く上手に表せられてて読んでて感情移入しちゃうの…
男の人は好き嫌いあるかもしれないけど、私は好きだなぁ、この話」
「そうなんだ…俺、あんまり本とか読まないけど、ちょっと気になるかも」
「え?恋愛もの??」
「んー…それもそうだけどその作家さんの他の作品とか」
「えっ!本当!?」
「うん、松元さん本の話してる時すっごい楽しそうに話すから面白いんだろうなーって」
…興味持ってくれたのは嬉しいけどなんか、ちょっと恥ずかしい
そんな私を他所に菅原君は続ける
「それにさ、好きな本の話とか感想とか言い合えたら楽しそうじゃない?」
その言葉に思わず顔を上げて菅原君の方を向く
ね?と嬉しそうに笑う彼に私は何度も頷いた
「それ、すごく素敵な提案だと思う!!」
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