君と私の物語 | ナノ
俺が彼女を初めて知ったのは高1の時だった
彼女は特に目を引く物がある訳じゃないし、見た目だって言っちゃ悪いが普通。
何処にでもいそうな普通の女の子だ
そんな彼女を意識するようになったきっかけは夏休み課題の読書感想文を書くために何の本を読もうかと図書室で探していた時だった。
あまり人気のない図書室はゆっくりと時間が流れているみたいでこの空気がなんとなく落ち着いた
さっきまで部活をしていたため汗ばんだ肌が冷房によって汗がスッと引いていく感覚が心地よい
しかし読書感想文なんてどんな本を読んだら良いのか。
普段あまり本なんか読まないためこういう時に困る
どうしたものかと本棚に取り敢えず立っているものの全く分からない
「…あの、」
そんな時、不意に後ろから声を掛けられた
振り向くとそこには1人の女子生徒が立っていた
クーラーが風を出す音と時計が動く秒針の音しか響かないこの空間の中で彼女の見た目とはちょっと違う低めな声は妙に響いた
「なにかお探しですか?」
難しい顔をして立っていたので、と彼女は続けた
「あっと…その、夏休み課題で読書感想文が出たからその本を選ぼうと思って…」
俺はそう言って苦笑いを浮かべた
「何かリクエストとかありますか?」
「…じゃあ、読みやすい本で」
彼女は分かりました、と言ってカウンターの方に向って行った
何となく俺もその後をついて行って彼女の様子を見ることにした
彼女はパソコンに向かって何やらカタカタとキーボードで打ち込んでいた
音が止まったかと思ったら彼女はカウンターから出てきて此方です、と言った
その後を追っていくと彼女は本棚から一冊の本を取り出し俺の方に差し出した
「この本、ちょっと分厚いかもですけど文字も少し大きめですし、挿絵も入ってるんです。
ストーリーにも入り込みやすいですから…」
彼女の手から本を受け取りパラパラと捲る
さっき言っていた様に思ったよりも文字数が少なく挿絵も入っていて読みやすそうだ
「えっと、この本…マイナーな物なんですけど私、凄く好きなお話で学校に置いてあるか調べたら、誰にも借りられていなかったので…」
「そうなんだ…君はこの本持ってるの?」
彼女の口ぶりからするとこの本は学校で借りて読んだ訳じゃないみたいだし
俺がそう言うと彼女はパッと顔を上げにっこりと笑みを浮かべた
「そうなんです!私、この作家さんが凄く好きで…中でもこのお話は一番お気に入りなんです!だから貴方にも…読んで、欲しくて…」
さっきの笑顔とは反対に彼女は段々と声をすぼめて俯いた
「…?」
「ごめんなさい、勝手に一人で盛り上がってしまって」
ははは、と乾いた笑い声を上げた
「いや、全然!えっと…本当に本が好きなんだなって…俺、この本借りるから!」
俺がそう言うと彼女は俺の方を向いて嬉しそうにコクリと頷いた
カウンターに戻り俺は彼女に本の借り方を教えてもらう
彼女は何やらパソコンに打ち込み俺に本を差し出した
本を受け取りながらパソコン画面を覗いた時
【8/7 図書委員:松元 依伽 】
松元依伽、心の中で呟き彼女改め松元さんにお礼を言って図書室から出た
あの時の松元さんの笑顔が忘れられなくてそれから彼女を見かけると何となく目で追ってしまう
あれから彼女との関わりは何もなく2年が過ぎた
松元さんは多分俺の事なんて全く覚えていないだろう
あの時彼女が勧めてくれた本はとても面白くてすぐに読み終わった
読書感想文もスラスラ書けて彼女にお礼を言おうかとも思ったけど覚えられていなかったらと思うと声を掛けることが出来なかった
彼女はまた図書委員をやっているのだろうか…
あの日も確か今日と同じ様な日だったな
そう思ったら自然と足が図書室へと向かった
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