姫川は大学にはほとんど行っていないようだった。
本人曰く、単位なんか金でなんとかなる。らしい。
だからと言ってただ家にいるのかというとそうでもなく、親の仕事を手伝っているのだと、週のほとんどは出掛けている。
パーティなどに顔を出すこともあるらしく、スーツにリーゼントをおろした髪で帰ってくることも多く、神崎も流石に見慣れてきた。
それでも夜は必ず帰る時間がわかれば連絡をいれてくるし、週に2日は二人で過ごす日をつくってくれている。
世間的に見て、"できた夫"だろう。
男二人のこの関係を夫婦と呼ぶならの話だが。


今日は珍しく連絡もなく早い時間に帰ってきたものだから、夕食の買い物を済ませたばかりでまだ下拵えの段階だ。
姫川も特に催促するわけでもなく、大人しくソファに腰掛けてテレビをつけた。
ソファの背凭れに首を預けて、背後のキッチンに立つ神崎を見遣る。

「すげぇ、新婚っぽいなぁ…」
「ぁ?なんか言ったか?」
つい緩む口元を引き締めなおす。
「いや。
今日のメニュー、なに?」
「鯖が安かったから煮付けにでもしようかと思ってる。
あとだし巻き卵とほうれん草の煮浸し。
味噌汁と吸い物、どっちがいい?」

視線は手元を見たまま答えるが暫く待っても返事がないので神崎が視線を姫川へと向けると、目を見開いて間抜けな顔でこちらを見つめていた。

「……神崎」
「ん?」

「俺、ほんといい嫁さん貰ったわ」
「誰が嫁だ!!
脳ミソ腐ってんじゃねーのか」

実際神崎の家事は完璧で、ハウスキーパーを雇わなくてもなんら問題はない。
これは一緒に住むことになって初めて知ったことで、かなり驚いた。
親が厳しかったため、掃除は勿論、料理以外の家事は幼い頃から手伝っていたかららしい。
料理だけは、今時珍しい"男子厨房に入るべからず"の精神でからっきしだったが、大学入試に落ち、家事を自分が担当すると決まってからすぐに練習を始めていた。

手際よく料理を仕上げていく神崎を眺めていて、ふと思い至る。
「エプロン、買ってやろうか」
水飛沫で神崎のシャツが少し濡れていたからだ。

「あぁ、まぁあった方が助かるけどよ」
「ん。
じゃあ買っといてやるよ」

そうして携帯と睨み合いを始めた姫川に、「味噌汁な」とだけ告げて神崎は料理に集中した。


携帯の画面には、色も形も様々なエプロンが並んでいる。
ギャルソン風のものから、可愛らしいもの、割烹着まである。
神崎は割烹着とか似合いそうだけど。と一人笑う。

どうせなら裸エプロンとかやっちゃうような可愛くて短いのがいいな。
色は勿論白で、フリルも捨てがたいが、神崎には少し透け感のあるレース地の方が似合うか。
あぁ、いっそ黒とかのが色っぽいか…。





「………なんか寒気が、」

神崎は冷房の電源を切った。















数日後、宅配で小さな箱が届いた。


「テメェ、なに考えてんだっ!?」

「ちょ、待て神崎!!
下にもうひとつ、入ってるから!!」

「あ゛?!
……ったく、くだらねぇことしてんじゃねぇよ。
こっちは貰ってやる」










「……一回だけ、こっちで裸エプロンやってくんない?」

「…………」













どんなエプロンになったかは、皆さんのご想像におまかせしますww
直後顔面を殴られたのは言うまでもありません。
でも結局流されて一回くらいはやっちゃうんだろうなw←←




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